For You 1

学生会室の会長席に座り、丹羽は書類をボゥ〜と眺めながら考えていた。
遠藤と付き合って3ヶ月…普通ならもうやる事はやっている仲なのだろうが相手があの遠藤だから当然キス止まりである。
なんせ手を握るだけでも1ヶ月も掛かったんだから。
別に清い付き合いが嫌だと思っている訳ではないけれども、やっぱり好きな相手なら触れたいと思うし、欲しいと思ったって当然だろう。
俺の下で乱れる遠藤を見てみたいし、遠藤の甘い声だって聞きたい。
健全な17歳の男ならそう考えたっておかしくないだろう。
なのに…これがなかなかうまくいかない。


「王様、何ボゥ〜としてるんですか?」
「啓太?お前いつ来たんだ?」
「今ですよ。ノックもしたし、声も掛けましたけど。俺の声が聞こえない程何真剣に考えていたんですか?」
「あ〜、別に。」
「和希の事でしょう?」
悪戯っぽく啓太は笑う。
こいつは普段は鈍いくせにどうしてこういう事に関しては鋭いんだ…と丹羽は思ってしまう。
「また、和希とケンカしたんですか?」
「ちげーよ。」
「そうですよね。和希今日機嫌良かったし…あっ!また何かとんでもない事言ったんですか?和希。いつも気を付ける様に言ってるのに、仕方ないなぁ。で、何言われたんですか?」
「啓太、勝手に決めつけるなよ。確かに遠藤の事は考えていたけど、お前が心配するような事は何も無いから安心しろ。」
「そうですか?ならいいですけど。王様は和希に甘いんだから、少しは厳しくしなきゃダメですよ。」
「はは…」
「さてと、王様、中嶋さんが来るまえに仕事しないとまた怒られますよ。」
啓太はそう言うと昨日の仕事の続きに取りかかった。


まったく啓太の奴は鈍いんだか鈍くないんだか、よく解らないな。
ヒデと付き合う様になってからは、頼もしくなってきたし。
なんせ付き合った当日にすべてを許しちまうんだから、ある意味凄い奴だとも言える。
まあ、それでなければあのヒデとは付き合えないか。
なんせヒデのあの笑顔…あんな物が拝める日が来るとは想像すらできなかった。
マジ、吹っ飛ぶぐらい驚いたんだぞ、ヒデのあの甘い笑顔には。
それだけ啓太がヒデに愛されている事なんだから。


丹羽は啓太の事をじっと見ながら考えていた。
その視線に啓太は気が付くと
「何ですか?王様。」
「あ…いや…なぁ啓太、一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でもどうぞ。」
「お前遠藤の事どう思ってる?」
「えっ?」
「いや、変な意味じゃなくてよう。」
「和希ですか?親友でいい奴だし、好きですよ俺は。」
「そっか。」
「う〜ん。だけどちょっと変わってるかな?」
えっ?変わってる?啓太でもそう思うのか?…丹羽は興味津々に聞く。
「ええ。少し視点がずれていると言うか。こう言っちゃ悪いけど世間知らずな所はありますよね。」
いや、そこまで言っちゃ遠藤が可哀相だろう…丹羽は思った。
「でも仕方ないですよね。鈴菱グループの後継者として教育されてきた訳だし、俺達庶民とは違うし。」
確かにそれはあるな。よく解ってるじゃないか…丹羽は感心する。
「でも素直だから、何でも真っ直ぐに受け止めてくれて…いい奴ですよ、やっぱり和希は。」
そうだな。可愛い奴だよな、遠藤は…丹羽は納得する。
「まあ、こんな所かな?で、どうしたんですか?急にこんな事聞いて来て。」
「うん?いや別に…」
その時“ガチャッ”とドアが開き、中嶋が入って来る。
「中嶋さん。」
啓太はすぐに中嶋の側に行く。
「今日は随分早く来たんだな、啓太。」
「はい。昨日の続きをしときました。」
「随分気がつく様になったな。」
「そんな事無いです。中嶋さんの教え方が良いからです。」
甘い空気を漂せながら話す二人を丹羽は渋い顔で見る。


遠藤も啓太みたいに素直に甘えてくれれば良いのに。
あいつは意地っ張りで素直じゃないからな。
最初に付き合いを申し込んだ時も“理事長だから”“年上だから”“男だから”とか言って一生懸命断ろうとしてたな。
まあ、最後には本音を言わせたけどよう。
そう言えばあいつ、よく泣くよな。
普段我慢している事が多いせいか、本心を出した時の遠藤は本当に素直になる。
そこがとても可愛い所なんだ。
俺にしか見せないあの笑顔も凄く良い。
うん…やっぱり俺の遠藤は最高に可愛い。


「ほう〜、それはなかなか面白い話だな。」
「中嶋さんもそう思いますか?」
「啓太、この書類を会計室に届けて来い。」
「解りました。行って来ます。」
啓太が学生会室を出ると中嶋は丹羽の側に来る。
「何を考えている?哲っちゃん。」
「はあ?何なんだよ、突然に。」
「啓太に遠藤の事をどう思っているかなんて、何で急に聞く?」
「あ〜それはだな。何でも良いだろう。」
「お前がそういう言い方をする時は、必ず何かあるな。」
中嶋はニヤッと笑う。
「どうせどうやったら遠藤をものにできるか考えていたんだろう?」
「な…何で解るんだ?」
「単純なお前の考えなんて、手を取る様に解るさ。」
「…」
「で…どうする気だ、哲っちゃん。」
「どうする気だって言われてもよう。」
「もうすぐお前の誕生日だろう。その時すればいいじゃないか。」
「あいつが嫌がったらどうするんだよ。俺はもう二度とあんな思いはしたくない。」
「“誕生日プレゼントにお前が欲しい。”と言えば遠藤の事だ。“はい”と言うだろう。」
「そうか?…うん、そうだな。その手でいくか!」
「少しは頭を使え。」
「ありがとな、ヒデ。」
「フッ。お前への誕生日プレゼントだ。成功を祈ってるぞ。」


王様のお誕生日まであと2日

王様、中嶋氏にお知恵を拝借して誕生日の計画を立てています。
今度はうまくいくと良いですね。
頑張って和希を幸せにしてあげて下さい。


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