For You 2

「はぁ〜」
ここ理事長室で和希は本日何回目かのため息を付く。
側で書類を見ていた石塚は徐に話しかける。
「和希様、何か悩み事でもございますか?」
「え?いや別に。」
「そうですか?今日はため息ばかりお吐きですが、いかがなされましたか?」
「えっ?」
「お気が付きになられていないのですか?」
「…ああ…」
「お疲れですか?それとも丹羽君と何かございましたか?」
「なっ…なんで王様が出て来るんだ?」
慌てる和希を見て、石塚は微笑む。
「先日、サーバー棟の前で丹羽君が和希様に派手に告白されていましたので、存じ上げております。」
「見てたのか?」
「はい。失礼かとは思いましたが、入り口のセンサーに反応してましたので。」
参ったなという顔をする和希。
できれば、誰にも知られたくはなかった。
自分の恋人が男で、しかも自校の生徒。
鈴菱の後継者として、理事長として、この事がどんなにリスクを背負う事になるか解っていて選んだ相手、愛した相手。
悔いはないけれど、いざ誰かに知られてしまうとどうしても動揺してしまう。
そんな和希に石塚は
「よろしいんじゃないんですか?丹羽君は素晴らしい方だと思いますよ。」
「石塚?」
「私も岡田も反対はしておりません。むしろ和希様が以前よりも、笑顔が増え、幸せそうになられてとても良かったと思っています。」
「石塚…」
「ご安心下さい。私も岡田も誰にも言うつもりはありません。」
「ありがとう、石塚。」
安心した様にいつもの顔に戻る和希。
「それでため息の原因はやはり丹羽君ですか?」
「いや…半分はそうかな?」
「半分ですか?」
「ああ。」
和希は少し躊躇しながら話す。
「石塚は恋人に“好き”って言った事あるか?」
「はぁ?“好き”ですか?それはありますけど。それが何か?」
突拍子もない事を言う和希に石塚は少し驚く。
「実は俺…まだ言った事が無いんだ…」
「…丹羽君にですか?」
「ああ…」
石塚は考えた。
確か5月下旬に告白されたはずだ。
そして今は8月上旬…という事は2ヶ月ちょっと経っている。
「あの、和希様、丹羽君もそうなのですか?」
「まさか。最初から“好きだ”ってしょっちゅう言ってるよ。」
「それで和希様は何も仰ってないのですか?」
「そうなんだ。何かタイミングずらしちゃったら、言いずらくなっちゃてさ。」
顔を赤く染めながら、言葉使いまで学生に戻ったみたいになって悩んでいる和希を見て、石塚は今度は自分がため息を吐きたくなった。
言葉など道具の一つとして仕事をしてきた和希が、まさか自分の恋愛でどう使って良いかなどと悩むなんて考えた事もなかった。
けれどこの様な事で悩み戸惑う上司が可愛く思えてくる。
石塚はニコッと笑うと、
「タイミングなど関係ないと思いますよ。」
「石塚?」
「和希様が仰りたい時に仰ればよろしいんですよ。」
「そうゆうものなのか?」
「はい、きっと丹羽君も和希様に“好き”と言われたら、大層お喜びになられると思いますよ。」
「喜んでくれるかな?」
「はい。私が保証してもよろしいですよ。」
「石塚が保証してくれるのなら大丈夫だな。」
笑い出す二人。
「ありがとう、石塚。」
「どういたしまして。何かございましたら、何なりとお尋ね下さいね。」
「ああ。その時は頼む。」
和希は笑顔で答えると、再び仕事を始めた。
心のつかえが取れたせいか、いつものスピードに戻っていた。


「う〜ん。」
和希は悩んでいた。
石塚は言いたい時に言えばいいとアドバイスしてくれた。
だが…なかなか思った通りにはいかないものだ。
言おうと思うといつも先に「好きだ。」と王様が言ってしまう。
続けて「俺も好きです。」と言えばいいのだろうが、言えない。
上手く伝えられない。
初めて知る“もどかしさ”。
どうしたらいいのだろう?
ここは一つ恋愛の大先輩である啓太と中嶋さんに相談すべきであろうか?
啓太に相談?
いや…それはかず兄としてできない話だ。
なら…中嶋さん?
想像するのも恐ろしい。
とんでもない事になりそうだ。
「か〜ず〜き〜。何百面相してるんだよ。」
啓太は和希を覗き込む。
「け…啓太?どうしてここに?」
「どうしてって、ここ学生会室だよ。さっき一緒に来たじゃないか。」
「ああ…そうだっけ…」
「歳をとると物忘れが激しくなるからな。啓太、遠藤をもう少し温かい目で見てやれ。」
「中嶋さん、俺そんな歳じゃありません。それにちょっと考え事をしていただけです。」
「そうか?まあいい。そう言う事にしといておこう。」
「そう言う事って…」
「それより遠藤、いくら丹羽と付き合っているとはいえ、丹羽の悪い所をまねするのは感心しないな。仕事中は仕事に集中しろ!」
「はい、すみません中嶋さん。」
しょげた和希を丹羽は庇う様に言う。
「それぐらいで勘弁してやれよ、ヒデ。遠藤だって疲れているのかもしれないじゃないか。」
「疲れているなら、無理に手伝う必要など無い。」
「まあ、いいじゃないかよ。気持ちの問題だろう。」
「ったく。遠藤の事になると、お前は本当に困った奴だな、哲っちゃん。」
中嶋はため息を吐いた。
「啓太、この書類を会計室に届けに行く。一緒に来い。」
「はい、中嶋さん。」
啓太はそう返事をすると、急いで和希の所に来て小声で言った。
「中嶋さん、気を利かせてくれたんだよ。悩み事何だか知らないけど、今のうちに王様に相談しちゃいなよ。」
「啓太?」
「それじゃ、和希、王様行ってきます。」
中嶋と啓太が出て行くと、学生会室は急に静かになる。
その静粛を破るかの様に丹羽は言った。
「遠藤、俺もうすぐ誕生日なんだ。」
「知ってます。15日ですよね。何か欲しいプレゼントありますか?」
「ある!」
「何ですか?」
「誕生日プレゼントにお前が欲しい!!!」
「…」
「遠藤?」
耳まで真っ赤にして丹羽から目を反らしながら和希は言う。
「考えておきます。」
「本当か?」
今にも飛び上がりそうな勢いで丹羽は言う。
「期待はしないで下さいね。」
和希は目を反らしたまま、そう言った。




王様のお誕生日まであと1日

石塚さん登場です。
和希の良き相談相手ですね。
折角教えて貰えたアドバイス、なかなか上手く実行できません。
王様ついに和希に誕生日プレゼントのお願いができました。
さて後は和希しだいです。



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