Handmade1
初めて啓太がそれに気付いたのは9月中旬だった。
その頃和希は仕事が忙しくて、授業もろくに受けられない状態で、1日の殆どをサーバー棟で過ごしていた。
当然恋人である丹羽は和希には会えなくて、毎日面白くなさそうに過ごしていた。
学生会室で手伝いをしていた啓太は、丹羽が時々ポケットからそれを出し大事そうに握りしめていたのを何度か目にしていた。
そして、10月に入ったある日…
“コンコン”
「失礼します。伊藤です。」
学生会室のドアをノックして中に入って来た啓太はそこに丹羽の姿しかないのに気付いて声を掛けた。
「あれ?今日は王様1人ですか?」
「ああ、ヒデは図書室に資料を探しに行ってるぜ。」
「そうなんですか…あっ、王様和希なんですが…」
「忙しいんだろう?」
丹羽は寂しそうに笑う。
そんな丹羽を啓太は心配そうに見詰めた。
「王様、元気出して下さいよ。和希の仕事ももう少ししたら片づくでしょうから。それより和希からメールきてますか?」
「いや…あいつ、忙しいと携帯ほっとくらしいんだ。落ち着いたら向こうから連絡くるからよ。それまではなるべく連絡しない様にしてるんだ。」
「えっ…?」
だって俺の所には毎晩必ずメールを寄越すのに、和希ってばどうして王様にはメールを寄越さないんだ?メールを送る相手間違ってないか?もう、和希ってば、何やってるんだよ、王様にこんな悲しそうな顔させてさぁ…啓太は心の中で呟いた。
その時啓太は丹羽の手に握られている物に気が付いた。
「王様、それって、クマのぬいぐるみですか?」
「ああ、俺の誕生日に和希が作ってくれたんだ。」
そう言って見せてくれたクマのぬいぐるみは、片手に乗るくらいの小さな物で、しかもいつものクマと違い生地がフワフワしている…タオル地みたいな生地で作ってある。
それを見て啓太は首を傾げた…このクマのぬいぐるみはどこかで見た事がある、確か色違いで…
「あっ!」
「何だ、啓太急に声を上げたりして。」
「そのクマのぬいぐるみと色違いですが同じクマのぬいぐるみを俺理事長室の机の上で見ましたよ。」
丹羽は頭を掻きながら言う。
「和希がお揃いだって言って作ってくれたんだ。“忙しくて会えない時はこのクマのぬいぐるみを俺だと思って下さいね。俺もこのクマのぬいぐるみを王様だと思って大切にしますから。”って言ってくれたんだよ。」
「へえ〜、和希ってば、そんな可愛い事王様には言うんですね。」
「えっ?可愛い事って…いや…そうかな。」
照れくさそうに笑う王様を見て啓太もつられて笑ってしまう。
『和希ってば、王様の誕生日には自分をプレゼントしただけだって言ってたのに。やっぱりそれだけじゃなくて、手作りのクマのぬいぐるみを王様にプレゼントしたんだ。みずくさいな、なんで黙ってたんだろう?』
愛しそうにクマのぬいぐるみを見詰める丹羽を啓太はジッと見ていた。
1ヶ月後には中嶋さんの誕生日が来る。
何かプレゼントをしたいけれども、何がいいか悩んでいた。
もしも、自分も手作りの物を渡したら、中嶋さんも王様の様に喜んでくれるだろうか?
不器用だけれども、何か中嶋さんに作ってあげたい…啓太はそう思い始めていた。
そうだ!!和希に相談してみよう!
きっと和希なら俺でも作れる物を教えてくれるはずだ。
そうと決まれば早速今夜和希にメールで相談しよう。
心躍らす啓太だった。
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