Handmade2

「和希、お願いがあるんだけどいいかな?」
10月中旬の暖かい陽気の中、啓太は和希に話しかけた。
「ん?何?珍しいな啓太がお願いだなんて。そう言えばこの間のメールにも書いてあったな。啓太のお願いなら、俺何でも叶えてやるぜ。」
「本当?」
「もちろん!俺にできない事は無い!」
「はは…和希ってば…」
「で、何だ、お願い事って?」
「うん。和希、俺に編み物教えて。」
「……」
「和希?」
「……」
「和希ってば、人の話ちゃんと聞いてる?」
「…ああ…啓太、俺聞き間違えたかもしてないから確認するけど、お前今“編み物教えて”って言ったのか?」
「うん、そうだけど?」
「そうだけどってなぁ…」
サラッと言う啓太に対し、クラッと目眩を起こしそうになる和希。
いいけどね、別に教えるくらい。でもおせいじにも器用とは言えない啓太が編み物をねえ…和希は心の中で密かに思った。
「何だよ、和希その顔。どうせ不器用な俺には無理だと思ってるんだろう。」
ピタリと当てられた和希は慌てて誤魔化す。
「いや、別に。けど何で急に編み物なんだ?」
「へへっ…」
少し顔を赤くさせて嬉しそうに啓太は言う。
「11月19日は中嶋さんの誕生日だろう。俺手作りの物をあげたいんだ。」
「中嶋さんの誕生日のプレゼントか。」
「うん!何か買おうかとも考えたんだけど、王様を見てたら俺も何か作ってあげたくなっちゃったんだ。」
「王様?何でそこに王様が出てくるんだ?」
「手のひらサイズのくまのぬいぐるみ。」
「えっ…」」
「理事長室の和希の机の上に手のひらサイズのくまのぬいぐるみがいるよね。あのくまとペアなんだって。」
「け…啓太?お前何でそんな事知ってるんだ?」
動揺する和希を見て、啓太はニコッと笑う。
「王様が話してくれたんだよ。和希知ってる?王様、制服のポケットの中にいつもくまのぬいぐるみを入れてるんだよ。」
「嘘…」
「やっぱり知らなかったんだ。王様、和希が自分の誕生日プレゼントに作ってくれたって、嬉しそうに話てくれたんだよ。」
「…まったく、あの人は…持ち歩くなよ、そんな物。」
「照れないでよ、和希。」
「別に照れてなんていないよ。」
「ふ〜ん。ならさぁ、何で和希の顔そんなに赤くなってるんだ?」
「う゛…これは…そうだ!啓太、お前何編みたいんだ?」
「和希、話ずらしてる…ずるい…」
「け…啓太?」
和希は心配そうに啓太の顔を見詰める。
ちょっとからかいすぎたかな?と啓太は反省する。
「和希、俺って編み物するのって初めてなんだけど大丈夫かな?」
「ああ、大丈夫だよ。結構簡単なのも多いし。」
「そうなの?じゃあ、俺でも出来る簡単な物って何がある?」
「そうだな…マフラーなんてどうだ?」
「マフラーかぁ。俺でも大丈夫かな?」
「単純な繰り返しだから、平気だろう?明日の土曜日俺夕方からなら時間が取れるから、待ち合わせして一緒に毛糸を買いに行かないか?」
「本当?ありがとう、和希。」
「どういたしまして。頑張ろうな、啓太。」



それから数週間後の夜、啓太は和希の部屋にいた。
「和希〜、なんで綺麗に出来ないんだ?」
ため息を付きながら啓太は言う。
3週間前に啓太が散々迷って決めた毛糸は、明るい紺色の毛糸だった。
来週の中嶋の誕生日に合わせて、啓太は一生懸命に編んではいるのだが、元々不器用な上に初めての編み物とあってなかなか目の大きさが揃わず、真っ直ぐにならないマフラーに啓太は悲しくなってしまう。
「こんなんじゃ、渡せないよ…」
泣きそうな啓太を和希は慰める。
「そうか?初めてしては、上出来じゃないのか?」
「そんな事ないよ。こんなによれよれだし…」
「まあ、確かに少しな。でも啓太、大事なのは啓太の気持ちじゃないかな。啓太が中嶋さんを想って編んでくれたっていうその事の方が俺は大切だと思うよ。」
「和希…」
「なっ、啓太。後少しで完成じゃないか。もう少し頑張ろうぜ。」
啓太は微笑む。
「そうだよね。俺使って貰いたくて始めたけど、例え中嶋さんが使ってくれなくても構わないよ。中嶋さんが喜んでくれたらそれでいいよ。」
「そうでなくちゃな。」
「うん。ありがとう、和希。」
「どういたしまして。啓太、俺も中嶋さんに誕生日プレゼントをあげたいんだけど、いいかな?」
「和希が?いいけど…あっ、手作りは駄目だからね。」
「ああ、もちろんだよ。だいいち中嶋さんに手作りの物なんて渡したら、王様が大騒ぎするに決まってるだろう?」
「確かに…」
「なっ、俺やだからな、そんな騒ぎを起こすのは。」
「はは…和希も大変だね。」
「笑い事じゃないんだからな。結構うるさいんだよな、王様ってそういう所。何でだろうな?」
真剣に悩む和希を見て、啓太は苦笑いをする。
『和希ってホント恋愛については鈍いよね。それって“やきもち”って言うんだよ。和希がそれだけ王様に大事にされているって事なんだけどね。こういう所が和希の可愛い所なんだろうな。』
心の中でそう思う啓太だった。
「ところで和希、中嶋さんに何をプレゼントするんだ?」
「あれなんだ。」
そう言って和希は机の上に綺麗にラッピングされている箱を指した。
「あれって何が入ってるの?」
「煙草だよ。」
「はぁ?」
「だから煙草だよ。中嶋さんがいつも吸っているのと同じ銘柄の物。」
「なんで、煙草なんだ?」
「だって、考えてもみろよ。中嶋さんならいらない物を貰ったって即ゴミ箱行きだぜ。かといって、誕生日だからってケーキやお菓子をあげても、甘い物なんて食べないだろう。だったら、必要な物が1番いいじゃないか。」
「う〜ん、言われてみれば確かにその通りなんだけど…」
「本当は未成年だから心が少しは痛むんだけど、まぁ誕生日だからな。」
「そうだね。きっと中嶋さん喜ぶよ。」
「啓太にそう言って貰って俺も嬉しいよ。さぁ、後1週間だからそれまでに頑張って仕上げような、啓太。」
「うん!」
待ってて下さいね中嶋さん…啓太は心の中でそう呟いた。





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