Handmade3

11月20日の朝、和希は啓太の事を考えながら、寮を出た。
昨日の夕方にやっと編み終わったマフラーを大事そうに抱えて中嶋の部屋に行った啓太。
あんな、幸せそうな顔、初めて見た和希はちょっぴり中嶋が羨ましかった。
自分だってこんなに啓太の事が好きなのに…でも仕方ないか、啓太にとって和希は親友であり、中嶋は恋人なんだから…
昨日はちゃんと渡せたんだろうか?
今朝啓太の部屋をノックしたが、返事がなかった。
と言う事は夕べから中嶋さんの部屋にずっといるんだな。
などど考えながら歩いていた和希は、1人で歩いている中嶋に気付いた。
中嶋の首もとには啓太が編んだマフラーが巻かれていた。
「おはようございます、中嶋さん。今朝は啓太と一緒じゃないんですか?」
「ああ。啓太は今日は1日休みだ。担任に伝えといてくれるか?」
「はい、それは構いませんけど。またですか?あんまり啓太に無理させないで下さいね。ただでさえ、啓太苦手な科目があるんですから。」
「お前が悪いんだろう?」
「俺がですか?俺が何したっていうんですか?」
「これだ。」
中嶋がマフラーを指差す。
「?マフラーですか?」
「お前が教えたんだろう、啓太に。」
「頼まれたから教えただけですけど。」
「それは啓太から聞いた。」
「なら、どうして俺が悪いんですか?」
「啓太がどうしても手作りのプレゼントを俺にしたかったと、可愛い顔で言うんだ。」
「はあ?」
「あんな顔をさせるのは反則だろう?」
「はい?」
「だから、押さえがきかなかったんだ。」
「…」
「お前が啓太に編み物など教えなかったら、こうならなかったんだ。」
「…」
ほんの少し顔を赤くして中嶋は言った。
『え〜と、つまり中嶋さんが言いたいのは、啓太から貰ったマフラーが凄く嬉しかったって事なんだろうな。まったく、回りくどい言い方をする人だよな。素直に嬉しかったと言えば良いだけなのに。まあ、中嶋さんらしいって言えば中嶋さんらしいかな?』
心の中でそう呟くと、和希は隣にいる中嶋に頭を下げ、
「すみませんでした、中嶋さん。それじゃ俺急ぎますので、お先に失礼します。」
そう言うと和希は1年生の校舎に向かって走り出した。


その日の放課後、和希は中嶋の部屋をノックしていた。
中嶋本人は今学生会室にいるのは知っている。
今中嶋の部屋にいるのは啓太だけだから、そう思って和希は尋ねて来ていた。
「啓太?いるんだろう?」
和希が声を掛けて暫くして、カチャッとドアが開き中から啓太が顔を出した。
「和希?どうしてここにいるって解ったんだ?」
「今朝、中嶋さんに会って欠席の理由を聞いたんだ。だから、啓太はここにいるんじゃないかなって思って来てみたんだ。」
「そっか。ありがとう、来てくれて。とにかく中に入って。」
初めて入った中嶋の部屋は、彼らしくとてもシンプルな部屋だった。
立ってるのが本当に辛いらしく啓太は直ぐにベットに座り込んだ。
そんな啓太に気付いた和希は、
「啓太、横になった方がいいぞ。」
そう言った和希に、啓太は苦笑いをしながら答えた。
「いい?横になっても。本当は身体がまだ怠くて…」
そう言いながら横になる啓太に和希は掛け布団を優しく掛ける。
「そういえば今朝中嶋さん、啓太が編んだマフラーを巻いてたぞ。良かったな啓太。」
「本当?嬉しいな。あっ、でも少し恥ずかしいかも。」
「なんで?」
「だって、上手く編めてなかったじゃないか。」
恥ずかしそうに言う啓太だが、その顔はどこか嬉しそうだった。
そんな啓太を見て和希は優しく微笑む。
「大丈夫だったよ。首に巻いてしまえば全然目立たなかったし。それよりも啓太にも見せたかったよ。中嶋さんの嬉しそうな顔。」
「えっ?」
不思議そうな顔をする啓太。
「中嶋さん、凄く幸せそうな顔してたからさ。マフラーの事顔を赤らめて話すんだ。俺悪いけど、中嶋さんの事可愛いと思ったよ。」
「嘘…本当に?本当に中嶋さんそんなに喜んでくれたの?」
啓太は起き上がって和希に詰め寄った。
「ああ、本当だよ。良かったな啓太。頑張って作って。」
「良かった…」
「だから俺が言ったろう?絶対に中嶋さんは喜ぶって。」
安心した啓太に、和希はそう言った。
「そうだ、肝心な用を忘れる所だった。啓太、これ今日の授業のノート。今日は無理でも明日には見とけよ。」
「うん。ありがとう和希。」
ノートを受け取りながらふと気付いて啓太は和希に聞いてみた。
「なあ和希。和希は王様に何か編んであげないのか?」
「えっ?」
「だからマフラーとかセーターとかさ。」
少し困った顔をしながら和希は答える。
「実はさあ…作って欲しいって昼休みに王様に言われたんだ。」
「昼休みに?」
「ああ。中嶋さんのマフラーを見てたら欲しくなったって言ってきたんだ。」
「何作るの?」
「えっ?実はどうしようかって迷ってるんだ。」
「何で?」
「何でって…今仕事忙しいし。」
「でも作るんだろう?」
「参ったな、啓太は何でもお見通しなんだから。そうだ!啓太もまた何か作るか?」
「俺?俺はもう当分いいや。」
「そうか?」
「今回ので疲れちゃったよ。でも来年はもう少し大物に挑戦してみたいな。その時はまた教えてもらってもいいかな?」
「ああ、任せろって。凄いのを作って中嶋さんを驚かそうな。」
「うん!その時はお世話になります。」
顔を見合わせて笑う和希と啓太だった。









「Smoky purple」のぱいん様より頂きました。




中嶋英明様、お誕生日おめでとうございます!!!
出番が少ししかなくてごめんなさい。
中嶋氏のお誕生日に愛しい啓太が、どうしたら1番喜んでくれるかと一生懸命考えたという話を書いてみました。
中嶋氏はこんな事で顔を赤くしないと思うけどなど、色々お思いになられるかとは思いましたがその点は多少目をつぶって頂けたら幸いです。
それから、こんな拙い小説に『smoky purple』のぱいん様がイメージイラストをご自身のサイトのmemoに描いて下さいました。
どうもありがとうございました。
とても嬉しいです。
しょうもないお礼で申し訳ありませんが、この小説ぱいん様にかぎりお持ち帰りO.K.です。
実は王様が昼休みに和希の所に行った話を『おまけ』として書いてみました。
下に書いてあるので、興味を持たれた方は読んで頂けたら嬉しいです。




   〜おまけ〜
「和希!!」
4時間目が終わって、和希がクラスメート達とお昼を食べに行こうとしていた時、丹羽は1年の教室のドアを勢いよく開け、大声で和希の名を呼びながら教室に入って来た。
普段は滅多に来ない丹羽に驚く1年生。
1番驚いたのは和希だったかもしれない。
「お…王様?」
「和希、ちょっと来い!!」
そう言うと、勢いよく和希の腕を引っ張り教室から出て行く2人。
周りの1年生はただそれを唖然として見ていただけだった。
和希が連れてこられたのは生徒会室。
そこでようやく腕を離された和希は何が何だか解らなくって困った顔をした。
「哲也?何があったの?」
何も答えない丹羽に和希はも1度聞いた。
「何かあったんですか?いきなり人を教室からさらう様な事をして。」
「和希、お前啓太に編み物を教えたのか?」
「えっ?ええ、そうですけど。それが何か?」
頭をガシガシ掻きながら丹羽は言う。
「ヒデの奴、今朝見た事のないマフラーをしてたから、どうしたんだって聞いたらよう、啓太から貰ったって言うじゃねえか。しかも啓太の手作りだって言うじゃねえかよ。その上啓太に編み物を教えたのは和希だって言うしよ。」
「その通りですが、何か問題でもあるんですか?」
不思議そうに聞く和希に丹羽は意を決する。
「俺だって、ずっと欲しかったんだ、和希の手作りの物を。」
「えっ?だって哲也そんな事1度だって言った事なかったじゃないですか?」
「言えるか!そんな事恥ずかしくて…」
少し頬を赤らめて言う丹羽に、和希は嬉しくなってしまう。
「じゃあ、何が欲しいんですか?」
「作ってくれるのか?」
「今すぐは無理ですよ。仕事が忙しいですし。」
「いつでもいい!和希が作ってくれるなら、俺何でもいいからな。」
嬉しそうに言う丹羽に和希は苦笑いをする。
「何でもいいんですね。」
「おう!楽しみに待ってるぜ!」
「はい。」
「じゃあ、飯でも食べに行くか?腹減ったぜ。」
「俺も。早く行かないと食堂混んじゃいますね。」
そう言いながら、学生会室を出た2人は食堂に向かって歩いて行った。

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