未来への扉16

「和希、支度はもうできたかい?」
鞄を丁度締め終わった和希は顔を上げながら、
「はい、教授。今終わりました。」
「そうか…和希がここからいなくなってしまうのは寂しいな。やはり気は変わらないのかい?」
「はい。俺…日本に帰ります。」
はっきりと言う和希に教授は寂しそうに微笑み、
「和希が決めた事だから仕方ないけど、寂しくなるね。」
「教授…俺ももう教授のお手伝いができなくなると思うと寂しいです。」
「ありがとう、和希。和希は日本に戻ったら小学校の教師になるんだよね。」
「はい。孤島の小さな小学校なんですけど。俺にはその方が合いますから。」
笑いながら言う和希に、
「もったいないな。ここで助教授までしていた君が。何を好んでそんな所に行くんだい?和希が希望すれば日本の有名大学に声をかけて仕事を見つけてあげられるのに。」
「教授。俺はここでたくさんの事を学ばせてもらいました。今度は俺が未来を背負う子供達に教える番です。」
「そうか。それでは和希の教え子がここに来る日を楽しみにここで待っていよう。」
「はい。頑張ります。」


和希の肩を教授はポンッと叩く。
「和希がアメリカに来てもう8年も経つんだね。君は本当に優秀な生徒だったからあっという間に飛び級をしてしまって大学院まで出てしまったんだから当時は驚いたよ。その後、わたしの側で助教授として頑張って働いてくれてもの凄く助かったんだがね。でも日本には和希の愛する人がいるから一刻も早く帰りたいのは仕方が無い事かもしれないがな。」
「なっ…何を言うんですか?教授。俺にはそんな人はいません。」
真っ赤になり慌てて否定する和希を教授は微笑ましく見ていた。
「いつも大切に飾っていた写真…和希が高校の時に撮った写真だよね?それに写っていただろう?たしか丹羽哲也と言う名前だったかな?」 和希がいつも枕元に大切に置いていた写真。
それは和希がベルリバティ高校の時、生徒会全員で撮った写真だった。
哲也の隣で幸せそうに微笑んで写っているその写真は和希がベルリバティ高校に通っていた時、いつも鞄の中にしまっていたので、アメリカに渡って来た時、唯一持ってきた哲也との思い出の品だった。
和希は寂しそうに微笑んだ。
「哲也先輩とは先輩と後輩の仲なんですよ。俺は哲也先輩に憧れていましたけどね。でも、あれから8年も経ったんです。哲也先輩ももう26歳です。今頃は結婚してお子さんの1人でもいると思いますよ。」
「そうなのかい?和希はいつも愛しそうに彼の写真を見ていたものだがら、てっきり恋人かと思ってたよ。」
「そうなんですか?確かに憧れの先輩でした。素敵な生徒会長でしたしね。でも、ここに来てからは1度も連絡を取っていませんから。」


和希が8年前ここに来てから、和希の元に来た手紙は河本からのものだけだった。
最初の頃はその手紙には哲也や豊の事がいつも書かれていたが和希が書かないで欲しいと願ったので数年前からはその事にあはふれてはいない。
だから、今哲也や豊が何をしているかは和希は何も知らなかった。
いや、知ろうとは思わなかった。
もう彼らとは縁を切ったつもりだった。
久我沼がいるかぎり和希は幸せにはなれないと思っていた。
ただ、何故かここにいる間は久我沼は何も接触してこなかった。
不思議に思ってはいたが、河本がうまくかわしているのだろうと思っていた。
そんな和希に教授は、
「和希、そろそろ港に行こうか?船の出港時間もあるからね。」
「あっ、はい。」
そう言うと和希は教授と共に部屋を出た。
部屋を出る前に和希は心の中で呟いた。
ー立ち直るまで8年も掛かってしまったけれども、この8年間は俺にとってとても重要な時間でした。俺はもう逃げないで頑張ろうを思います。日本に帰っても丹羽先輩や豊さん達には会わないけれども、今までお世話になった方々に恩返しをするつもりで頑張ろうと思います。ここ、アメリカで俺を支えてくれた沢山の方々、8年間お世話になりましたー

        *   *

和希が皆の前から姿を消して10年の歳月が流れていた。
その間に哲也は高校、大学を卒業し、父親竜也と同じ警察官になっていた。
あの日…和希がいなくなった日竜也に言われた言葉を哲也は律儀に守っていた。
『お前が本気で和希君を想っているというなら、時期を待て。今のお前は親に頼りっきりの存在だ。一人立ちをしたら和希君をむかえにいけばいい。本気で惚れているなら短い時間だろう?』
1日も早く和希を迎えに行く為に必死で勉強をし、いつも学年ではトップを保っていた。
和希を迎えに行くのに相応しい男になり、今度こそ和希を幸せにするつもりだった。
もう和希にあんな悲しそうな顔や不安そうな顔はさせない。
どんな過去でも受け止められる男に哲也はなっていた。


だが…
準備は万全なのに、肝心の和希の居場所がどうしても掴めなった。
学生の時は無理があったが、警察官になってからは使えるコネはできるだけ使って和希の行方を捜したがどうしても解らなかった。
そんなある日、哲也の下に吉報が届いた。
和希の居場所が解ったのだ。
和希が10年前にアメリカに渡り、8年間そこで過ごした後、2年前に日本に戻って来ていて、今は小さな孤島で小学校の教師をしていると言う報告だった。
もちろん今も独身だ。
哲也はその孤島の名を見てニヤッと笑った。
「やっと見つけたぜ。もう2度と離さないから覚悟するんだな。」
嬉しそうに呟く哲也だった。

         *   *

青い空、青い海…
今日もここは平和だった。
和希がこの孤島に小学校の教師として赴任してきてから2年の月日が経っていた。
島にある小学校は1つだけで当然教師は和希だけだった。
農業と漁業で成り立っているこの島は人口は少ないが、皆気さくな人達で和希はすぐに島の人達とも親しくなっていた。
元から人懐こい所がある和希だったので、島の人達からは『和希先生』と呼ばれていた。
和希は『先生』と呼ばれるのは恥ずかしいから生徒だけにして欲しいと頼んだのだが、留学中に農業や漁業の知識も大学で学んできたので、和希の知識は相当なもので困った時は和希に相談をしに来るくらいだった。
和希自身の真面目な性格なのが幸いしたのか、ヒマさえあれば皆の所に手伝いをしに行っていたのが幸いしたのか、島の住民にあっという間に信頼されてしまっていた。


「和希先生、明日は誰の所にお手伝いに行くんですか?」
生徒の1人が和希に聞く。
「和希先生、明日は私のトコに来て。」
「あっ、ずるい。この間お前の所に和希先生は手伝いに行ったじゃないか。今度は俺んちだよ。」
「それなら私のトコにも来て。」
我先にと生徒は和希に頼み込む。
和希は困った顔をしながら、
「順番どうりにまわるからね。今回は君の所だったよね。」
和希がその生徒に声をかけると生徒は嬉しそうに、
「はい。じゃ、俺帰ったら父ちゃんと母ちゃんに言っときます。明日和希先生がお手伝いに来るって。」
「はい。お願いしますね。ご迷惑にならないようにしますのでよろしくお願いしますと伝えて下さいね。」
「はい。」
「それじゃ、皆。もう家に帰る時間です。寄り道をせずにちゃんと家に帰るんですよ。それから宿題を忘れずにやる事。いいですね。」
「「は〜い」」
元気よく生徒達は返事をし、それぞれの帰途につく。


それを見送った和希は教室に戻ろうとした時、忘れたくても忘れられなかった懐かしい声を聞く事になる。
「元気そうだな、和希。」
慌てて振り返った和希が見た人は10年間忘れられなかった…いや10年前よりも想いが増した人物だった。
何も言えずに目を大きく見開いて哲也を見つめる和希。
そんな和希の側まで哲也はゆっくりと歩いて行くと、和希の目の前に立った。
「10年間探したんだぞ。こんな所に隠れているとは思わなかったぜ。」
「…どうして…」
「ん?何がだ?」
「…どうして…丹羽先輩がここにいるんですか?…」
「そりゃ、おれがここの島の駐在所の警察官になったからだ。」
「…丹羽先輩が?ここの警察官に?どうして?」
「もちろん和希と一緒にいる為だ。ちょうど、ここの島の駐在所の警察官の募集があってな。すぐに申し込んだんだ。」
「だって…丹羽先輩なら東京で仕事をしていればお父様と同じ警視総監にだってなれるのに…こんな所にいたらそのチャンスがなくなってしまうのに…」
「俺は親父とは違う。愛する人と一緒にいつもいたいんだ。だから和希を探した。俺はもう和希を離さない。俺の側にずっといろ。」


和希は首を横に振る。
「無理です。」
「どうしてだ?」
「俺は丹羽先輩に相応しくない。」
「俺に相応しくないかは俺が決める。」
「駄目です。そんな事をしたら丹羽先輩のお父様やお母様が悲しみます。」
「大丈夫だ。ちゃんと了解を取ってからここに来た。“嫁を貰う為に行ってくる”と」
「嫁って…俺は男です。」
「解っている。けど、親父やお袋は賛成してくれたぜ。」
「賛成って…それは俺だと解ってないからでしょう?」
「いや、和希が男だって知ってるぜ。俺の10年越しの初恋に根気負けしたんじゃないか?ああ、ついでに河本さんの了解も取ったからな。“お幸せになって下さい。近いうちにお祝いに伺わせてもらいます”って言ってたぜ。」
「河本さんが?まさかここも河本さんに聞いたんですか?」
「まさか。河本さんの口を割らす事なんてできなかったぜ。さすが遠藤家の執事だよな。」
「…」


「それから…」
哲也は1度言葉を切ってから話だした。
「鈴菱家にも行ってことわってきた。」
「鈴菱家に?」
和希は驚いた顔をした。
5年前、和希がアメリカにいた時鈴吉は亡くなっていた。
あんなに大切にしてもらったのにその最後に側にいれない事が悔しくて和希は一晩中泣いていた。
けれども今姿を出す訳には行かなかった。
和希の代わりに河本に葬儀は出てもらった。
入れ替わっていても、和希は鈴吉とは血の繋がった孫だった。
せめて最後だけは側にいてあげたかったが、今皆の前に姿を現すわけにはいかなかったので辛くても泣いて諦めたのだった。
和希は震える声で尋ねた。
「まさか…豊さんに話たのですか?」
「いや、豊には何も言ってない。俺が話したのは伯父さんだけだ。和希の居場所と和希を嫁に欲しいってな。和希は隠していたけど、鈴菱の伯父さん、叔母さんが和希を産んでくれた本当の両親なんだろう?ならこれは大切な事だからきちんと許可を取りたかったんだ。」
和希は震える声で聞いた。
「それで鈴菱のおじさまは何て?」
「“お願いします”だとよ。」

         *   *

哲也はその時の事を思い出していた。
「構わないんすか?男の俺が男の和希を嫁に欲しいと言っているんですよ。普通なら反対するんじゃないんですか?」
「普通ならか…しかし、私は普通ではない。」
「おじさん?」
「私は10年前に久我沼から全てを聞かされた時、和希君の事よりも豊の事を考えてしまった。豊をどう守ろうかとその事ばかり考えていた。こんな私は親として失格だろう?」
苦笑いをして言う鈴菱に哲也は言った。
「俺はまだ親にもなった事がないから偉そうな事は言えないけれども、それは当然なんじゃないんですか?16年間我が子だと信じて慈しんで育てた子なんでしょう?ならそれは当然なんじゃないんですか?まして豊はここ鈴菱本家の跡取りだ。もしも本当の事が解ったらとんでもない事になる事くらい俺にだって解りますよ。おじさんの判断は間違ってないと思います。」
「ありがとう哲也君。けれども和希君はどう思ってたんだろうね。自分よりも豊を選んだ私を怨んではいないとは言い切れないだろう?」
「おじさん!」
哲也は強い口調で言った。
「和希がそんな奴ではない事くらいおじさんだって解っている筈です。和希はおじさんや豊を思って姿を10年も消していたのでしょう?それは多分和希が生きている限り続くと思いますよ。和希はもう2度とここには、鈴菱家には近寄らないと思います。そういう奴です、和希は。」
鈴菱は驚いた顔をしていたが、ゆっくりと笑って答えた。
「そうだね。哲也君の言う通りだね。私は本当に親として失格だな。和希君の気持ちに気付けなくて。」


そう言った後鈴菱は、
「でもね…心の中では思っているんだ。私の子は2人いると。豊とそれから和希君だ。おそらく口に出して言う事は一生ないと思うが、それでも、私は和希君の事を思っている。」
哲也は嬉しそうに答えた。
「その気持ちはきっと和希に通じていると思いますよ。」
「ありがとう、哲也君。それよりもさっきの話だけれども、哲也君の両親は何と言っているんだい?」
「親父とお袋ですか?好きにしていいって言ってくれました。何しろ10年も思い続けて和希の事を探していたんだからさすがに諦めたんじゃないんですか?その代わりに言われましたけどね。和希を不幸にしたら許さないって。俺が子供だって事忘れてるんじゃないんですかね。普通は逆じゃないですか?なのにまだ会ってない和希に事がえらく気に入ったようで。孫は見せられないのは解っているから、嫁の顔だけでも見たいから早く連れて来いって煩いですよ。」
哲也は苦笑いをして言った。
「そうか。なら私も依存はない。哲也君、和希君の事を頼むよ。私は和希君に親らしい事は何もできないけれども、心から祝福していると伝えて欲しい。和希君の幸せを心から願っているともね。」
「解りました。和希には必ず伝えます。」
そう言って立ち上がった哲也に鈴菱も立ち上がり頭を下げた。
「哲也君。和希の事をお願いします。」
「はい。」
鈴菱から初めて出た呼び捨ての名。
きっといつも言いたいはずなのにそれが許されない環境にいる。
華族も大変なんだと哲也は思った。


鈴菱家を出ようとした時、哲也は豊に声を掛けられた。
「哲也、珍しいな。お前が父さんに用があるなんて。」
「ああ。今度移動でここを離れるんで挨拶しいにきたんだ。」
「移動?だってお前ずっとこっちにいるんじゃなかったのか?」
「何事も修行が必要だろう?いろんな所で勉強していい警察官になりたいんだ。」
「ふ〜ん、さすが哲也だな。見直したよ。」
「ありがとな。ところで豊はどうなんだ?鈴菱の本社で働いているんだろう?嫁さんも貰ったし次は子供を作る番か?」
「大変だけど、頑張ってるよ。和希がいつ帰ってきてもいいようにな。俺の第一秘書は和希って決めてるんだ。和希が戻るまでは永遠のその場所は埋めないつもりだ。」
「和希は帰ってこないかもしれないんだぞ?そんな事をして仕事に差し支えがないのか?」
「大丈夫だ。それよりも哲也も父さんと同じ事を言うなよ。でも、最近は父さんも諦めたみたいだけどな。」
嬉しそうに笑って言う豊。
豊は自分の本当の過去を知らない。
だから真っ直ぐに育って鈴菱家を支えていた。
「ところで哲也はまだ、和希の事を諦めてないんだろう?だからまだ結婚もしないんだろう?」
「ああ。俺の嫁は和希に決めているからな。」
誇らしげに言う哲也を豊は羨ましそうに見つめていた。
「和希も本当に自分勝手だよな。こんなに想ってくれている哲也を見捨ててどこにいるんだろうな。」
「そうだな…」
「でも、どこにいようが絶対に探し出して俺のものにするんだろう?」
「おっ、豊。よく解ってるじゃねえか?」
「解ってるって…今の台詞もう何百回聞いたと思ってるんだよ。哲也の思いが叶う事を祈ってるぜ。」
「ありがとな、豊。」

         *   *
哲也は思い出しながら、
「和希は凄いよな。」
「えっ…?」
何の事だか解らずに首を傾げる和希。
「和希が姿を消してから10年も経ってるんだぜ。でも、誰も和希を忘れてはいない。今どこで何をしているのか皆心配している。」
「…皆って?…」
「鈴菱のおじさん、おばさん、豊はもちろんの事、ヒデに郁ちゃん、七条だって今だに和希の事を心配しているんだぜ。和希が落ち着いてからでいいからきちんとあいつらにも連絡取れよ?居場所は言わなくてもいいから元気だって一言でいいからさ。」
「俺は…皆を騙してきたんだ…皆の側にいる資格なんてない。それは丹羽先輩、貴方に対してもそうです。もう俺の事なんて忘れて下さい。」
「そうはいかない。やっと捕まえたんだ。もう2度と離さない。」
「俺は…俺は汚れた過去を持っているんだ。真っ白な丹羽先輩の隣になんていられない。」
「和希。俺はお前の過去が汚いなんて思った事は1度もない。」
「嘘です。俺は…俺は…この身体でお金を得てたんですよ?そんな汚らわしい人間なんですよ?」


悲痛な声で叫んだ和希を哲也はギュッと抱き締めた。
驚いて暴れる和希。
「なっ…離して下さい、丹羽先輩。」
「駄目だ!やっと捕まえたんだ。もう2度と離さない。」
「だから俺は貴方に相応しくないんです。俺を放して下さい。俺を忘れて下さい。そして東京に帰ってください。」
「どうしてそんな事ばかり言うんだ。和希は俺が嫌いか?」
「俺は…」
和希は何も言えなかった。
たとえ、もう2度と哲也の側にいられなくても和希は一生哲也だけを思って生きていこうと思っていた。
だから、言えなかった。
たとえ嘘でも“嫌い”だとは…
「どうしたら俺の物になってくれるんだ?こんなに愛しているのに。どうして和希は自分の過去にこだわるんだ?そんな過去なんて忘れちまえばいいんだ。どうしたら俺と歩む未来を選んでくれるんだ?教えてくれ、和希。」
和希の目から堪えきれない涙がポロポロと零れ落ちる。
もう限界だった。
和希だって哲也を愛してるから。
こんな熱烈なアプローチをされて平気なわけなかった。


和希は決心をして声を出した。
「俺の過去や親は気にならないんですか?」
「気にしないと言えば嘘になると思うが、俺は気にしてないつもりだ。」
「こんな俺でもいいんですか?こんな汚れている過去を持っている俺でも?こんな俺でも丹羽先輩に愛される資格があるんですか?」
「資格?そんなものは必要ねえよ。あるとしたら、和希が俺を愛しているかどうかだけだ。」
和希は呟くように囁いた。
「俺は初めて丹羽先輩に会った時から丹羽先輩の事が好きです。」
哲也は嬉しそうに笑うと和希の髪にそっとキスをしながら、
「なら、何の問題もないな。」
和希は哲也の顔を見て言った。
「いいんですか?俺は貴方の側にいてもいいんですか?」
「側にいて、もう2度と離れるな。いいな。」
和希はまた涙を流しながら頷いた。
「はい…丹羽先輩…」
「違いだろう、和希?」
「えっ…?」
「丹羽先輩じゃない、哲也だ。」
「哲也…」
「ああ。今度からそう呼べよ。いいな。」
「はい。愛してます、哲也。俺を貴方の側にずっと置いて下さい。」
「もちろんだ。嫌だって言ってももう離さないからな。覚悟をしろよ。」
和希はクスッと笑うと、哲也の唇にそっと自分の唇を重ねた。
それは直ぐに離れてしまったけれども…
「これからはいつも一緒にいて下さいね。喜びも悲しみも共に感じて下さいね。」
「ああ。今まで寂しい思いをさせてしまった分まで愛してやるから。」
頬に流れる涙をその大きな手で拭いながら哲也は和希に愛の言葉を囁いた。







終わった〜!!
この一言です。
2007年9月20日に連載を始めたこのパラレル小説もやっと終わりを迎えました。
約10ヶ月ちょっとの連載になりました。
1回の量が少なかったので長くなってしまったのですが、当初の予定どおり王和で終わりました(ホッ)
たくさんの方から拍手やコメントを頂きました。
最初はチラッとしか書く予定のなかった豊君。
非常に人気を得てしまい、予定外にたくさんの登場をしてもらいました。
本当はまだまだ書き足りない所がある作品です。
でも、とりあえずこのシリーズはここで終了です。
できたら、番外編でも書きたい勢いなんですけどね…
ここまでお付き合いして下さった方、どうもありがとうございました。
皆さまのおかげでこの話はここまで書く事ができました。
この場を借りてお礼を言わせて下さい。
本当にありがとうございました。
                2008年8月7日


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