Mistake 2

「和希?どうしたの?何があったの?そんな顔して。」
和希は今にも泣き出しそうな顔をしていたが、啓太を見ると無理矢理笑顔を作った。
「ごめん、何でもないんだ啓太。」
「何でもないって…そんな訳ないだろう?」
「本当に何でもないって、心配させてごめん…」
そこまで言った時、堪えきれず涙が頬を伝わった。
「か…和希?」
「悪い啓太、一人にしてくれ。」

そう言うと和希は走って行ってしまった。 不安でたまらない啓太はすぐ側の中嶋の腕を握りしめ、
「中嶋さん、和希どうしちゃったんですか?」
「ふぅ〜」
中嶋はため息を一つ付くと、温かい眼差しで啓太を見つめ頭を優しくなぜ、大丈夫だと囁く。
そして徐に学生会室に入ると無言で立ちすくむ丹羽に向かって言った。
「今度は遠藤に何をした?哲っちゃん。」
中嶋の声にハッとした丹羽は、初めてそこに中嶋と啓太がいる事に気付いた。
「ヒデ…」
「まったく、毎回人騒がせな奴だな、お前と遠藤は。」
「何言ってるんだよ。」
「今そこで遠藤が泣いてたぞ。今回は何をして泣かせたんだ、哲っちゃん。」
「えっ…?泣いてた?遠藤が?」
「泣いてましたよ、王様。和希凄く辛そうな顔して…あっ!その包み、和希お弁当作ってきたんですか?」
丹羽が持っているくまの絵柄のナプキンに包まれた四角い包みを見て、啓太は言った。
丹羽は自分の手に持っている物…さっき和希が投げ付けた包みを見た。
「弁当?」
「はい。和希毎日学生会の仕事を頑張っている王様に何かしてあげたいって言ってお弁当を作ろうって決めたんです。でも、和希料理作った事がなくて、本を見て頑張ったんだけど、食べられそうな物が作れなかったらしいんです。それで俺、成瀬さんに教えて貰えばって言ったんです。成瀬さん料理凄く上手だし。」
「ほぉ〜それでその弁当を丹羽に持ってきたのか?」
「はい。間違いないですよ。だってその包み、俺と一緒に買いに行った物だから。」
「で、愛しい遠藤から手作り弁当を貰ったのに、何故この様な状態になっているんだ、哲っちゃん。」
「それは…」
「はっきり言え!」
「寮の厨房で二人を見ちまったんだ…」
「ああ…」
ニヤッと中嶋は笑う。
「おおかた、成瀬の奴が遠藤にキスでもしたんだろう。」
「な…なんで解るんだ?」
「解るさ。料理の礼にとキスの一つでもされたんだろう。成瀬らしいじゃないか。」
「ヒデ…」
「そうだろう。」
「ああ、そうだな。悪いヒデ。俺ちょっと出て来る。」
「そうか。仕事がたまっているんだ。早く帰って来いよ。」
「解った。」
学生会室を飛び出した丹羽を見て、中嶋はため息を付いた。
「全く、世話が掛かる奴だ。」


和希がどこにいるかなんてよく解らなかったが、最近二人でよく行く場所、海岸へ丹羽は行ってみた。
「遠藤!!」
ビクッとして上げた和希の顔は涙で濡れていた。
「王…様…?」
和希の側まで走って来た丹羽は、
「遠藤、さっきはいきなり怒鳴ってホント悪かった。もう気にしてないから平気だぜ。」
「でも…」
「いいって。俺は厨房で見た事はもう忘れた。」
「…良いんですか?それで…」
「ああ。」
和希は丹羽のシャツをギュッと掴み、丹羽の胸に顔を埋めた。
「ごめんなさい、王様。」
「気にしてないって言ったろう。」
「でも…」
「本当にもういいって。それよりこれ、俺の為に作ってくれたんだろう。一緒に食おうぜ。」
そう言うとくまの絵柄で包まれた弁当を和希に見せる。
「それ、どうして中身がお弁当だって解ったんですか?」
「さっき啓太に教えてもらったんだ。」
「啓太に?」
「それよりも早く食おうぜ。俺腹減ったぜ。」
二人して岩場に座って弁当を開いたが、中身はグチャグチャだった。
「俺…さっきこれ王様に投げたんですよね。」
申し訳なさそうに和希は言う。
「なんとか食えるだろう。」
「でも原型とどめてませんよ。食べるの止めましょう。」
「何、腹の中に入れば一緒だって。どれから食べようかな。」
「王様、無理しなくて良いですから。」
「うん、美味いぜこれ。」
「そうですか?成瀬さんに教わりましたからね。味は大丈夫だと思いますよ。」
「そうか?成瀬に教わったわりには焦げてるな。」
「どうせ俺が作りましたからね。」
「焦げぐらいたいした事ないぜ。愛が一杯詰まってるからな。」
「愛がって…王様のバカ!!」
「バカって何なんだよ。人がせっかく褒めてやってるのによぉ。」
顔を赤くして和希は答える。
「もう知りません。」
海の方を向いてしまった和希を丹羽は苦笑いしながら見つめる。
「ほら、いつまでも拗ねてないで一緒に食べるぞ。」
なかなか丹羽の方を向かない和希に丹羽は言う。
「遠藤食べさせてやるから、こっち向けよ。」
「何言い出すんですか?」
丹羽の方を向いた和希の口の中に丹羽は素早く卵焼きを入れる。
「どうだ?美味いだろう?」
「美味しい。」
「だろう?さぁ、もう一口。」
「え?もういいですよ。後は自分で食べられますから。」
「ダメだ!」
困った顔をしながらも丹羽にじっと見つめられ、和希は諦めて食べさせてもらった。
和希は恥ずかしかったが、丹羽の嬉しそうな顔を見ると何も言えず早く食べ終わればいいなぁと思った。






王様の誕生日まであと6日

やっぱり最後は中嶋氏ですね。
王様の誤解を一発で解決してしまいました。
いや、単に王様が単純なせい?
なんやかんや言っても王様に弱い和希。
仲直りできて良かったね、和希、王様。
お幸せに。




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