Origin 2

啓太のアドバイスを受けて、ここ学生会室の前まで和希は来たのだがそのままそこから動けないでいた。
ノックしようとして手をドアに近づけてはノックできずにそのまま手を下ろすのを何度も繰り返している。
ため息を付きながら、和希は思った。
中に王様がいるとは限らない。
確立としては、王様よりも中嶋さんがいる方が多いはずだ。
もしも王様がいたとしても中嶋さんがいたら相談なんて出来るはずがない。
第一王様に何を聞くつもりだったのだろうか?
まさか『中嶋さんが俺にキスしかしてくれないのは何故ですか?』と聞くのだろうか?
いや…そんな事はできない。
いくら王様が中嶋さんと親友だからってそこまではできないだろう?


和希がそう考え始めた時、
「遠藤、そんな所で何をしているんだ?」
「中嶋さん…」
和希を見て優しく微笑んでいる中嶋。
「さっきからそこでじっと何を考えていたんだ?」
「あの…そう…今日は王様がいるのかなぁって…」
我ながら情けない回答だったがこの際仕方が無かった。
「丹羽か?丹羽ならいないと思うぞ。授業が終わったら急いでどこかに消えたからな。」
「そうですか…」
和希はホッとしたような残念な気持ちでいたが、そんな複雑そうな顔をした和希の様子を中嶋が見逃すわけがなかった。
「丹羽に何の用だ?遠藤。」
「えっ…」
和希は困ってしまった。
まさか本当の事は言えるはずもない。
かと言って適当な理由もすぐには思いつかなかった。


「大した事じゃないんです。それよりも俺今日は学生会のお手伝いにきたんです。」
「そうか。なら中に入れ。」
中嶋に深く追求される事もなかったので、和希は安心してその後について学生会室に入って行った。
中嶋が言った通りに中には誰もいない。
学生会室だけれども、久しぶりに2人きりになれて和希は嬉しかった。
「中嶋さん、俺は何をすればいいですか?」
「そうだな。まずこのデーターを入力してくれるか。」
「はい。」
中嶋から受け取った書類をパソコンに入力していく。
中嶋も自分のパソコンを開き、学生会室は中嶋と和希が打つパソコンの音だけが響いていた。


和希はチラッと中嶋を見ながら思った。
穏やかな時間。
それは大好きな人と共有できる時間だからだ。
けれども、幸せのはずの時間なのに心のどこかで不安に思う気持ち。
本当に中嶋さんは自分が好きなのだろうか…と思ってしまう。
こうして学生会の仕事を手伝ってくれる貴重な存在として大切にしているだけではないだろうかと思ってしまう時がある。
和希は不安なのだ。
何も身体を重ねあったから安心だと言うわけではない。
けれども、あの中嶋さんが何もしないのが不安で仕方が無い。
思い切って聞いてみる方がいいのだろうか?
何て言うんんだ?
まさかはっきりと『どうして俺を抱いてくれないんですか?』と聞くのか?
いや…いくら俺でもそこまで露骨に聞く勇気はない。
なら、どうしたらいい?
毎日こんな事ばかり考えていたらそのうちに仕事に支障をきたすに決まっている。


和希は中嶋に気付かれないようにため息を付いた。
恋愛は難しいと…
大好きだった中嶋さんに告白された時は凄く嬉しかった。
その時に交わしたキスが最初だった。
以来、時々キスをしてはくれるが、それ以上の行為には発展しなかった。
「遠藤、疲れているのか?今日はもう寮に帰った方がいいな。」
中嶋にそう言われ、ハッとして中嶋を見る和希。
自分は学生会の仕事も必要とされないのか?
不安で胸が苦しくなる。
「どうして?…」
和希は呟くようにそう言った。

その呟きに中嶋は気付くと、自分の席から立ち上がり和希の側に来ると和希の頭を撫で、
「どうした?今日のお前は少し変だそ?」
「変なんかじゃない…」
「遠藤?」
「中嶋さん…俺の事…本当に好きですか?」
「ああ。どうしてそんな事を聞くんだ?」
「だって…中嶋さんは俺の事を抱いてくれないじゃないですか?本当に俺の事が好きなんですか?なら、どうしてキスしかしてくれないんですか?」
一方的にまくし立てる和希に中嶋はため息を付いて答えた。
「遠藤は俺に抱かれたいのか?」
「えっ…」
「俺は遠藤が好きだ。だから抱けなかった。」
「どういう意味ですか?」
「俺は今まで遊びで抱いた事は数え切れないくらいある。けれども惚れた相手を抱いた事はまだ1度もないんだ。」
和希はキョトンとした顔をした。
今中嶋は惚れた相手と言った。
それは俺の事だと思っても構わないのだろうか?
そう思うのは自惚れではないのだろうか?
「それって…俺の事ですか?…」
「他に誰がいると思ってるんだ。」
中嶋にそう言われ、返答に困った和希。


中嶋は和希に近づくとそっと触れるキスをしてから言った。
「遠藤が望むなら今ここで抱いても構わないがな。」
「えっ、えっ…ここでですか?」
「ああ。やるなら早い方がいいだろう?」
「いや…ここはちょっと…」
「遠慮はいらない。」
「遠慮じゃなくて…中嶋さん、速攻過ぎませんか?」
「これでも色々と我慢してたんだ。でも、今遠藤から許可がでたからな。」
「俺は別に許可なんて出してません!」
「そうか?そんな潤んだ瞳で人を誘っといてよく言うな。」
「なっ…誘ってなんていません。」
むきになって答える和希を中嶋は楽しそうに見つめる。
「ご期待に答えてやるから安心するといい。」


そう言って、和希はソファーに押し倒される。
「な…中嶋さん…」
「好きだ、遠藤。」
そう言って再びキスをされるが、今度は舌を入れる深いキス。
その上手さに和希は酔いしれてしまう。
どのくらいそうしてキスをしていたのだろうか?
腰が抜けそうなくらいのキスに和希が潤んだ瞳で中嶋を見つめながら言った。
「中嶋さん…貴方が好きです…」
「ああ…知っている…」
中嶋は和希の頬を手で触れると、
「優しくする。だから俺のものになってくれ。」
「中嶋さん…」
和希はふわりと微笑むと、首を縦に振った。
これから訪れる至福の時に胸を弾ませながら、和希はソッと目を閉じた。



2話完結でした。
もう少し悩む和希を書こうかとも思ったのですが、中嶋さんを登場させてしまったら一気にHAPPY ENDなってしまいました。
ひたすら甘々な話でした。
和希を大切に思うあまり手を出すのができなかった中嶋さん。
でも、和希の一言でもう気持ちを抑える事ができなくなりました。
今まで我慢していた分和希は思いっきり抱かれてしまうんでしょうね。
頑張れ!和希!!
明日も仕事と学校があるからね(笑)
               2008年11月10日



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