Preview 1

「そろそろ起こさなきゃまずいだろうな。」
丹羽の肩に寄り掛かって気持ちよさそうに眠っている和希を見て、丹羽はため息をつく。
ここは映画館の中。
今人気上昇の俳優が主役として出ているこの映画は、話題が尽きないくらいの人気でその上映が楽しみにされている。
その映画の試写会チケットが手に入ったので、丹羽、中嶋、啓太、和希の4人で見に来ていたのであるが、映画が始まって5分もしない内に和希は眠ってしまったのである。
土曜日にフリーの1日を取るのがいかに大変かは丹羽は解っていたが、無理をして仕事を片付けても、疲れが出てしまいここで寝てしまっては何の為に頑張って仕事を片付けたのかよく解らなくなってしまう。
まあ、その疲れの半分は丹羽のせいと言っても過言ではないが。
もっとも、この後も皆で昼食を取ったりまだ遊んだりするので、それはそれで楽しみはあるのだが今日のメインはやはりこの試写会なのである。
丹羽はもう一つため息をつくと、
「仕方ない、起こすか…」
映画のエンディング曲が流れたので、丹羽は和希の頬を優しく叩きながら耳元で囁く。
「和希、映画終わったぞ。もう起きた方がいいぞ。」
「…えっ…?」
ゆっくりと目を開いた和希だったが、まだボゥ〜としている。
そんな和希を丹羽は愛しそうに見つめる。
「…哲也?…ここ…どこ?…」
寝ぼけているのか、視点が定まらない目で丹羽を見る和希。
そんな和希を見て、相当無理をさせてしまったと丹羽は反省していた。


1週間前の学生会室。
“コンコン” “ガチャ” 
「中嶋さん、いますか?」
勢いよくドアを開け、啓太は学生会室に入って来ると、お目当ての中嶋を見つけ、嬉しそうに側へと走り寄った。
「何だ?啓太、騒がしくするな。」
「あっ、ごめんなさい、中嶋さん。」
「解ればいい。で、何か用か?」
「はい。実は映画の試写会のチケットが当たったんです。それで中嶋さんの都合さえ良かったら一緒に行きたいんですが、いいですか?」
啓太はそう言いながら1枚のはがきを中嶋に見せる。
「ほう〜、よく当てたな。この映画の試写会のチケットの倍率は凄いと聞いてるぞ。」
「へへ…俺って運だけはいいから。」
「折角啓太が当ててくてたんだ。行かせてもらうぞ。」
「本当ですか?中嶋さん。俺、凄く嬉しいです。」
今にも飛び跳ねそうな様子の啓太を一緒に学生会室に入って来た和希は嬉しそうに見詰めている。
そんな和希を見ると、解っていても少し面白くない気分に丹羽はなってしまう。


以前丹羽は和希に聞いてみた事があった。
「なあ、和希。俺ってお前の何なんだ?」
「はあ?何ですか?いきなり。」
「だから、和希にとっての俺って何だ?」
「恋人です。」
「恋人なのか?」
「そうですよ。それとも違うと言いたいんですか?」
「いや、そう言って貰って嬉しいけどよ…」
「けど?何なんですか?」
「いや、それなら別にいいんだ。」
「何か歯切れが悪いですね。何隠してるんですか?」
「別に隠しちゃいないさ。」
「そうですか?何か怪しいんですよね。」
和希は丹羽をじっと見詰める。
視線をずらす丹羽。
「観念して白状した方がいいと思いますが。」
「観念って。俺は犯人なんかじゃないぞ。」
「哲也!」
「うっ…」
「さっさと答えて下さい。」
「…お前っていつも“啓太”“啓太”だろう」
「えっ?」
「俺よりも啓太の方が大事なんじゃないか?」
「そんな…」
「和希にとって啓太が大事な存在だって事は解ってるつもりだ。だけど、不安なんだよ。」
「不安?」
「俺じゃ、和希の事を幸せにしてやれないんじゃないかと思ってさ。」
和希の目から涙が零れていた。
「か…和希?」
丹羽はオロオロしてしまう。
「どうして、そんなふうに思うんですか?俺は哲也の事が好きなのに。でも啓太の事は別なんです。啓太は俺にとって特別な存在なんです。そう思う事は許されない事なんですか?」
「和希…」
「哲也にならこの気持ちが解って貰えると思ったのに…」
「…」
「ごめんなさい。俺、哲也の事傷つけてたなんて考えた事もなかった。」
それだけ言うと、クルリと後ろを向いて走り出した和希の腕を丹羽は掴み、慌てて自分の方を向かせて、抱きしめた。
「悪い!泣かすつもりじゃなかった!」
「哲也?」
「やきもちをやいたんだ。」
「やきもち?」
「和希が俺の事を愛しているなんてよく解ってるんだ。ただ、和希が啓太にあんまり笑いかけるから、面白くなかったんだ。」
「俺は…」
「解ってる。啓太は特別なんだろう?それでいいんだよ。そんな和希が好きなんだから。」
「哲也…いいの?俺は啓太の事が大事なんだよ。」
「ああ、いいんだ。だけど、時々でいいんだ。俺に“愛してる”って言ってくれるか?」
「…」
「和希?」
丹羽は和希の顔を除き込む。
そこには顔を真っ赤にした和希がいた。
暫く黙っていた和希だったが、顔をあげて丹羽の目を見ながら言った。
「愛してる、哲也。でも言わなくても解って下さい。俺が一番好きな人は、恋人の哲也だけなんだから。」
「和希。」
「好きですよ、貴方が。世界中の誰よりも。それくらい、俺に言わせないで気付けよな…哲也のバカ…」
少し膨れっ面をしながら言う和希の可愛さに丹羽は自分を押さえきれずにその場に和希を押し倒し、いつもより時間をたっぷりかけて和希を抱き続けた。


「それでこのチケット4人分なんです。中嶋さんと俺と和希と王様で行きたいんですが、構いませんか?」
「構わないが、そうだな。この仕事が片付かないと丹羽は無理だな。」
「何勝手な事ほざいてるんだよ、ヒデ。啓太、俺も行っていいか?」
「もちろんですよ。ダブルデートしましょうね。」
そう言いながら啓太は丹羽にはがきを見せる。
「おっ、これ俺も見たかったんだ。このチケットを当てるだなんてさすがだな啓太。」
嬉しそうに言う丹羽だったが、はがきに掲載されている日付を見て顔をくもらせる。
「この試写会、土曜日なのか?なら和希は無理じゃなんじゃないか?」
「その日は大丈夫ですよ、王様。」
和希はニコッと丹羽に向って微笑んだ。




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