Preview 2

大丈夫ですとにこやかに言う和希に丹羽は心配そうに言う。
「だってお前、土曜日はいつも忙しくて朝から夜中まで仕事をしてるだろう?」
「本当に大丈夫ですから。その日はどうしても出席しなければならない会議も会食もないし、さっき石塚に休む事も伝えたので1日フリーですからね。」
「そうか、なら安心だな。」
「はい。俺、その映画凄く観たかったんです。啓太が試写会のチケットを当ててくれてもの凄く嬉しかったんです。」
「和希、俺からそのはがきを見た時興奮してたもんな。」
「当たり前だろう。本当に嬉しかったんだから。啓太には感謝してもしきれないくらいだよ。」
「大げさだなあ、和希は。そうだ!和希が土曜日1日自由なら試写会の後ご飯食べてから夜まで一緒に遊ぼうよ。」
「えっ?いいのか?啓太。」
「もちろんだよ。4人で一緒に遊ぼうよ。和希はどこか行きたい所はない?」
「そうだな?でも久しぶりだよな、啓太と外で遊のって。」
「そう言えばそうだな。なんかお互いに予定が合わなかったからな。」
丹羽と中嶋の存在を忘れて盛り上がる二人に、丹羽と中嶋は苦笑いをしながら二人を見守っていた。
「さてと哲っちゃん、試写会に行きたかったら、この仕事終わらして貰おうか?」
「おい、まじかよヒデ。いくら何でもこの量は1週間じゃ終わらないぜ?」
「いままでサボっていたのはお前だろう?とにかく終わらなければ留守番だ。」
「はあ〜、これを1週間で仕上げるなんて、どう考えたって無理だろうな…」
ため息をつく丹羽に、
「王様、俺も手伝いますから諦めずに片付けましょう。」
「和希…」
「ねっ、一緒に試写会に行きましょうよ。」
「でもよぉ、お前だって仕事があるじゃねえか。」
「俺は別に夜に仕事をしたって構わないんです。それよりも俺が王様の手伝いをしたいんです。そう思うのは迷惑ですか?」
和希はそう言ってから、丹羽の側に寄ると耳元で囁く。
「最近忙しくてゆっくりと哲也とデートしてないじゃないですか?偶には俺の我が侭に付き合って下さいね。」
少し頬を赤らめて和希はそう言うとふわりと微笑んだ。
そんな和希の気持ちがたまらなく嬉しい丹羽は、思わず和希を押し倒しそうになったがここが学生会室であって、中嶋と啓太がいるのでのグッと我慢する。
「よし!!そうと決まったらさっさと片付けるぞ!和希、この書類を打ち込んでくれ。」
「はい、王様。」
急に張り切りだした丹羽を見て、どうしたんだろうと首を傾げる啓太と、あいからわず単純馬鹿だと呆れた顔する中嶋も自分達の仕事を仕始めた。


昼間は授業、放課後は学生会の手伝い、寮で遅い夕食を4人で食べた後、サーバー棟へ行き日付が変わるまで、時には朝方まで仕事をした1週間だった。
当然疲れが溜まってくる訳で、いくら気力で頑張ってもやはり限界というものがある。
その結果がこれだった。
「和希、ここは映画館だ。解るか?」
「えっ?映画館?どうして俺…あっ!!」
小さな声で叫ぶと、慌てて画面を見てため息をついた。
「はぁ〜、俺もしかして寝ちゃいましたか?」
「ああ、始まってすぐにな。」
落ち込んだ顔をしている和希の頭を、丹羽は優しく撫でる。
「まぁ、寝ちまったものは仕方ねえじゃないか。俺は和希の寝顔を堪能できて良かったぜ。」
「…哲也…俺この映画凄く観たかったんだよ。それに折角啓太が試写会のチケットをくれたのに寝ちゃったなんて、啓太になんて言って謝ればいいんだよ。」
「啓太には正直に謝りゃ許してくれるだろう?映画のあらすじは後で俺が話してやるから、もう元気出せよな。」
「…うん、仕方ないよな。」
和希は残念そうにそう呟いた。


4人で映画館を出た後、中嶋のお薦めのパスタ店でお昼を食べ、お店を見たり、ゲームセンターで遊んだりした。
「啓太、実は俺…」
和希は申し訳なさそうに啓太に言った。
「うん?何?和希。」
「ごめん!俺さっき映画館で寝ちゃったんだ。」
「ああ、そう言えば随分と気持ちよさそうだったね。」
「へっ?」
さり気なく言う啓太に和希は唖然とする。
てっきり怒られると思っていたからだ。
「け…啓太、知ってたのか?」
「知ってたよ。だって和希ってばあんなあどけない顔で王様の肩に寄り掛かって寝てるんだから。」
「ほぉ〜、あどけない顔で丹羽に寄り掛かって寝ていたのか?遠藤は。」
「な…中嶋さん…?」
「それは惜しい事をしたな。俺もしっかりと見ておくべきだったな。」
「な…何言って…」
「本当に可愛かったんですよ、和希の寝顔。中嶋さん、見れなくて残念でしたね。」
「啓太、お前中嶋さんに何て事言ってるんだよ。」
「何だよ、和希。可愛かったから可愛いって言ってどこが悪いんだよ。」
「俺の寝顔なんて可愛い訳ないだろう。」
「可愛いに決まってるじゃねえか。」
今まで話に加わってなかった丹羽が突然話に口を挟んできた。
「ねえ、王様だってそう思いますよね。ほら、和希王様だって言ってるんだから、認めちゃいなよ。」
面白なさそうに和希は言う。
「もう…勝手に言ってろよ。それより啓太、本当にごめんな。折角の試写会だったのに俺寝ちゃってさ。」
「いいよ、気にしてないから。」
「本当に?」
「うん。後であらすじ話してやるから、今度俺の部屋に遊びに来いよな。」
「ありがとう、啓太。楽しみにしてるからな。」
それを聞いて丹羽は慌てて和希に言った。
「おい、和希。あらすじ俺に聞くんじゃなかったのか?」
「えっ?ああそう言えばそんな話してましたっけ。でも、啓太から聞くんで王様はいいですよ。」
「和希、そりゃないだろう?」
「俺と話す時間があったら学生会の仕事を片付けて下さいね。」
「和希?」
「よく考えてみたら、俺が眠ったのって王様が学生会の仕事を溜めたせいでしょう?」
「…」
「俺、もの凄く楽しみにしてたんですよ。」
「それは…悪かったって。」
「過ぎた事はもういいんです。今度から気をつけて下さいね。」
「お…おう。」
和希は丹羽に向かって微笑むと、その後中嶋に、
「良かったですね、中嶋さん。王様当分仕事サボらないみたいですよ。」
「そのようだな。いつまで続くかは解らんが一応礼は言っとくぞ、遠藤。」
「どういたしまして。」
和希はそう言うと啓太の方を向いた。
そこには呆れ顔の啓太がいたが、和希を見て
「さてと、これからどこ行こうか?」
「そうだな、どこかいい所ありますか?王様。」
「それじゃ、カラオケでも行くか?」
「あっ!それいいですね、王様。」
「だろう?」
「中嶋さん、いいですか?」
「啓太が行きたければいいぞ。」
「ありがとうございます。和希もいい?」
「ああ。(俺カラオケって行った事ないんだけど何とかなるよな…)」
この後、王様の歌声を聞いて、もう二度と王様とはカラオケに行かないと誓う和希と啓太でした。





映画の試写会で眠ってしまった和希。
王様の仕事を手伝って睡眠不足になってしまいましたんですね。
ラストのカラオケですが、中嶋氏は王様の歌声をよく知っていましたので、行っても行かなくてもどちらでも良かったんですが、啓太が行きたがっていたので、ついて行っただけです。
和希は初体験のカラオケでしたが、心の中でもう2度と誰ともカラオケには行かないと決心しました。




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