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執事の君といつまでも… 13

「夢か…また随分と懐かしい夢を見たものだな…」
中嶋は髪の毛をクシャッとさせながら起き上がった。
珍しく夢を見た。
しかもそれは、和希がまだ留学する前の夢だった。
中嶋はまだ子供だったが、和希に恋をしていた。
大好きな和希といつまでも一緒にいられると思っていたのに、別れは突然に来てしまった。
『英明様の為にだけ行ってくるのです』
そう言って中嶋に黙って旅立ってしまった和希。
悔しかったが、あの頃の中嶋にはどうしようもなかった。
だから、必死に学んだ。
和希を傍においても誰にも文句を言われないように。
けれども、待っても待っても和希は帰って来なかった。
手紙を出したかったけれども、許されるはずがなかった。
また、和希からの手紙も来なかった。
いや、中嶋には無かったが中嶋の父や河本には手紙が届いていた。

そして月日は流れて中嶋が中学3年の冬に和希は中嶋家に戻ってきた。
けれども、帰ってきた和希はもう昔の和希ではなかった。
「ご無沙汰しております、英明様。」
「和希。ずっと待っていたんだぞ。どうして便りをくれなかったんだ?」
「使用人が雇い主のご子息に連絡を取る必要はありません。必要な事は英明様のお父上に連絡しました。」
「和希?」
「英明様、この機会ですのではっきりと申し上げます。私は使用人です。その事をお忘れないよう、私に接して下さい。」
「…どうして…?」
「何がですか?」
「どうしてそんな風に言うんだ?確かに和希はこの家の執事だけど、それ以前に俺の大切な人だろう?」
「英明様…」
和希はため息を付くと、
「もう、子供ではないでしょう?今の英明様の立場と私の立場をよく理解して下さい。それでないと英明様専属の執事はできません。」
「…っ…」
中嶋は和希をジッと見つめた。
留学する前より綺麗になった和希。
ただ美しいだけでなく、艶のある美しい姿になっていた。
中嶋を見つめる瞳は当時とあまり変わらず優しい。
けれども、雰囲気が違う。
昔まとっていた柔らかい雰囲気はなくなって冷たい空気のようなものをまとっていた。
「俺が…俺が和希を執事として扱ったら、和希は俺専属の執事になるんだな。」
「はい。そのように英明様のお父上から言われていますので。」
「そうか…」
和希が中嶋家に戻ったらまた中嶋専属の執事にして欲しいとずっと父親に頼んでいたのであった。
その約束を忘れないでいた事は嬉しかった。
なにしろ、仕事が忙しい人だから忘れられる可能性が高かったからだ。

「分かった。」
それだけ言うと中嶋はその場から立ち去った。
悲しかったからだ。
もう、昔のように和希は自分に接してくれないであろう。
けれども、中嶋はあの頃のような無力な子供ではなかった。
実力もかなりつけていた。
後はその実力で行動を起こし、社会的に認められる事ができたら和希に告白しようと決めていた。
だから…
その間に和希に惚れられるようになろうと中嶋は新たに決意するのであった。

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