Shy 1

「はぁ〜何があったんだ、いったい。」
丹羽はため息を吐き、呟く。
ここは学生会室。
丹羽は先程からずっと考えていた。
先日和希から七条の誕生日に何かプレゼントを渡したいと言う啓太の話をした翌日から、和希は丹羽を避けていた。
思い起こせば、した後から和希の様子は変だった。
確かに無理な頼み事はしたが、和希は一応は引き受けてくれた。
かなり無理をさせたので、また動けなくなったのだが今回はどうしても自分の部屋へ戻ると言い張った。
「哲也、俺部屋に帰ります。」
「帰るって、お前歩けないだろう。」
「うっ、部屋まで連れて行って下さい。この時間帯なら、たぶん誰にも会わないですむだろうし。」
「しかし、一人じゃ何かと不便だろう?このまま俺の部屋に居ればいいじゃねえか。」
「仕事があるんです。」
「仕事って、サーバー棟へなんていけないだろう?」
「だから、部屋でパソコンで仕事をするんです。」
「だったら、俺の部屋でやれ。どうせノートパソコンなんだろう。持ってきてやるよ。」
「駄目です!企業秘密なものもあるんです。自室以外ではできないんです。」
「でもよぅ…」
「駄目な物は駄目です。これは仕事なんです。いくら哲也だって仕事に関してだけは口出しして貰いたくないです。」
毅然として答える和希。その顔は1年の遠藤和希ではなく、社会人としての鈴菱和希だった。
丹羽は観念する。
こうなったら頑として和希は譲らない。
渋々和希を部屋に運び、ベットにノートパソコンを置くと名残惜しそうに丹羽は自室へ戻っていく。
何かあったら必ず携帯に連絡を寄越す様に言って。

が…その日から明らかに和希の態度は変わった。
丹羽と二人っきりになろうとしなくなり、学生会室へも来なくなった。
携帯に連絡しても“忙しい”“疲れている”の一言だけのメールのみ。
授業以外はサーパー棟にいて、点呼ぎりぎりに帰って来る生活を送っていた。
考え事をしている丹羽に啓太が声を掛ける。
「王様?どうかしたんですか?」
「あ…いや…別に…」
「和希の事ですか?」
「えっ?」
「和希、この頃王様に対して変によそよそしいですよね。しかも、俺が頼み事をした日から…」
啓太は俯く。
「俺…俺のせいですか?」
いつの間にか涙声になる啓太。
慌てる丹羽。
「いや、啓太には何の関係もねえぜ。」
「でも!」
顔を上げた啓太の目には涙が浮かんでいた。
「俺が無理な頼み事を和希にしたから、だから和希の様子が変わったんでしょう?」
「いや…それは…」
「お前はバカか、啓太。そんな事ある訳ないだろう。悪いのはすべて丹羽だ。」
「ヒデ。」
「中嶋さん…」
それまで黙っていた中嶋は立ち上がると啓太の側に行き、ギュッと啓太を抱き締めた。
中嶋の胸の中で啓太は必死に堪えていた涙をポロポロと零す。
「だって…中嶋さん、和希が…」
「お前は何も悪く無い!」
「だって…」
「落ち着いて考えて見ろ。あの遠藤がお前の悲しむ事をするか?そんな訳ないだろう?どう考えたって、そこにいるバカが何かしでかしたに決まってる。」
「そこにいるバカって俺の事かよ。」
ボソッと丹羽は言う。
そんな丹羽を中嶋はチラッと見るが、直ぐに啓太に視線を戻す。
「大丈夫だ、啓太。後は俺が何とかする。」
「本当ですか?」
涙で濡れた目で中嶋を見上げる啓太。
その涙を唇で拭いながら中嶋は言う。
「ああ、明日にはいつもの丹羽と遠藤に戻っている。さぁ今日はもう手伝いはいいから寮へ帰ってろ。
宿題が沢山あるって言ってただろう?解らない所は夕食後に俺が教えてやるから、部屋に来い。いいな。」
啓太は頷く。
「はい。それじゃ後で伺います。お先に失礼します、中嶋さん、王様。」
「おう。」
学生会室を出て行く啓太に丹羽は声を掛ける。
啓太が出て行くと、中嶋は丹羽の前に立つ。
「で、今度は何をした?哲っちゃん。」
「何って…」
「毎回毎回勘弁して貰いたいものだ。しかも今回は啓太まで泣かせるし。」
「いや…泣かせたのは俺じゃない…」
そこまで言った時、中嶋の目つきが変わる。
丹羽の背筋がゾッとする。
「ほぉ〜、啓太が泣いたのはお前のせいじゃないとでも言うのか?」
「い…いや…俺のせいだ。おれが至らなかったばっかりに啓太を泣かせちまったんだ。悪い。このとうりだ。許せ。」
丹羽は慌てて謝る。
「俺は犬の誕生日に連名でプレゼントまでしたんだぞ。」
「本当に、その件に関しては感謝してます。」
「それなのに、その俺に対しての扱いがこれか?」
「いや、それは…頑張ります。頑張って書類を片付けます。」
「ふぅ〜。」
中嶋はため息を一つ付くと、それから徐に言った。
「今夜9時に遠藤の部屋に行ってみろ。」
「へっ?」
「9時に話があるから部屋にいろと遠藤に言ってある。」
「ヒデ、お前…」
「ゆっくり話して遠藤と仲直りしてこい。今度啓太を泣かしたらどうなるか解ってるな。」
丹羽は嬉しそうに笑う。
「ありがとな、ヒデ。」
中嶋はニヤッと笑うと、書類の束を丹羽の机の上に置く。
「今日中にこれだけの書類に目を通し、判を押しておけ。」
「はい?」
机の上の書類の束を見て丹羽はげんなりする。
「これを今日中にやるのか?」
「そうだ。何か文句でもあるのか?」
「いや、でもよう、これ9時までに終わらねえぞ。」
「終わらなければそれまでだ。遠藤との話し合いは無しと言う事だな。」
「…せこいぞ、ヒデ。」
「何か言ったか?」
「いや。へいへい、やりますよ。やればいいんだろう。和希の為なら9時までに終わらせてやろうじゃないか。」
机に向かい書類を手に取る丹羽。
そんな丹羽を見て中嶋はほくそ笑む。
「ふっ。やろうと思えば出来るじゃないか。いつもその調子でやって欲しいものだな。」




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