Shy 2

夜の9時丁度に丹羽は和希の部屋の前に立ちドアをノックした。
ドアはすぐに開き、中から顔を出した和希は丹羽を見て動揺した。
「王様?どうして?」
「和希、話があるんだ」
「ごめんなさい、王様。今夜はちょっと約束があるんです。」
「ヒデとだろう?」
「えっ、どうして知っているんですか?」
「ヒデの代わりに来たんだ。」
「中嶋さんの代わりに?…それじゃ、中嶋さん最初からそのつもりで…」
中嶋にはめられたと気付いた和希だったが、ここで丹羽を追い返す事もできず、諦めて言った。
「ここじゃなんですから、とりあえず中に入って下さい。」
「おう、お邪魔するぜ。」
数日ぶりに和希と二人きりになれた…それだけで丹羽は嬉しかったのだが、そんな丹羽を和希は見ようともせずに一言だけ言った。
「それで、話って何ですか?」
「和希、お前何俺の事さけてるんだ?」
「えっ?別に俺、王様の事さけてなんていませんけど。」
「いいや、さけてる!この間の晩からだ。何が気に入らない!!」
丹羽は和希の腕を掴むと、無理矢理丹羽の方へ向けるが和希は顔を上げようともしないし、口も閉ざしたままだった。
そんな和希に丹羽は、
「もう俺の事、嫌になったのか?」
「なっ…違います。」
「そんな訳ないだろう?この数日間の和希の態度を見れば変だって啓太だって気付いたぜ。」
「啓太が?」
「お前だって啓太に心配掛けさせたくないだろう?おれが嫌になったのなら仕方ねえ。だが、俺はお前に惚れてるんだ。簡単には諦めないぜ。」
「だから、嫌いって訳じゃないんです!」
パッと顔を顔を上げた和希だが、丹羽と目が合うと再び俯く。
そして…
「本当に嫌いじゃないんです。でも…」
言葉に詰まる和希。
そんな和希に丹羽は優しく語り掛ける。
「でも、何だ?」
「恥ずかしくて…王様の顔が見られないんです…」
「恥ずかしい?」
「はい…だって俺、この間の晩あんな事して…」
「この間の晩って、俺の部屋に来た晩の事か?」
「…」
耳まで赤くして和希は黙って頷く。
あの夜…丹羽に頼まれて和希が丹羽にした夜の事。
「そうか?別にたいした事しなかっただろう?」
丹羽の問いに和希は首をブンブン振る。
「俺…王様の服を脱がしたんですよ…」
(確かにいつもは俺が自分で脱いでるが、そんなに大した事じゃないだろう?)
「それに…口で王様の事をいかせちゃったし…」
(口でいかせたって、それ、いつも俺が和希にしている事だろう。それに偶にだが頼むとお前もしてくれるじゃないかよ、恥ずかしがるけどよぅ。)
「王様がどうしても見たいからっていうから、俺…自分でしていちゃったし…」
(ああ…あれの事か。一度見てみたかったんだよな。和希が一人していくのを。凄く色っぽかったなぁ、あれは。もう一度見てみたいぜ。)
「その上、あんな姿勢で王様を受け入れたし…」
(あの体勢は初めてだったな。和希が俺の上に乗ってやるのは。でも気持ち良かったぜ、あれも。偶には俺が下になるのもいいよな。)
「あんなに声も荒げたし…」
(そうだったな。いや〜満足だったぜ。和希のあんな甘い声を一杯聞かせてもらったんだから。いつもと違うせいかもの凄く感度も良かったし。最高だったな。)
そこまで言うと和希はしゃがみ込む。
「とにかく、恥ずかしくて、もう王様の顔をまともに見られません!!」
「はぁ〜?」
丹羽はしゃがみ込んだ和希を呆れて見つめた。
丹羽にとっては幸せそのもので大満足したその行為が、和希にとっては恥ずかしくていたたまれなかったのだ。
「もしかして、それで俺の事さけていたのか?」
丹羽は笑いながら言う。
和希は何も言わない。
ひととおり笑った丹羽はしゃがみ込んでいる和希をそっと抱き締める。
「恥ずかしがる事なんて一つもないんだぜ。俺はあの晩和希にさらに惚れたんだからな。」
ピクッと和希の身体が動いた。
「そんなに恥ずかしかったのか?悪い事をしたな。でも俺は本当に嬉しかったんだぜ。」
「本当に…?」
ボソッと和希は言う。
丹羽は嬉しそうに微笑むと、
「ああ。でも和希がそんなに嫌だったら、もうお前からしなくてもいいからな。」
和希は顔を上げると、丹羽の頬に触れるだけのキスをする。
「俺の事、嫌いにならない?」
「何馬鹿な事言ってるんだ。なる訳ないだろう。愛してるぜ、和希。」
「俺も…好きです、哲也。」
「和希?」
「哲也の事、愛してます。」
「和希!!」
丹羽は和希をギュッと抱き締める。
和希の口から初めて聞いた“好き”と“愛してる”。
恥ずかしがり屋の和希がいつ言ってくれるかずっと心待ちにしていた言葉。
もっと聞きたいけれど、どうせ催促しても言ってはくれないだろうから、今はこれまでと我慢をする丹羽。
丹羽は和希の顎をそっと持ち上げるとキスしようと唇を近づけあと数センチの所まで来たその時、
“コンコン”
「遠藤、いるか?」
ノックの音と共に篠宮の声がする。
「あ…点呼の時間…」
和希と丹羽は顔を見合わせて笑う。
「遠藤いないのか?」
「は〜い、います。」
そう言ってドアを開ける。
「よし。今日はちゃんといるな。」
「今日はって。最近はちゃんといるじゃないですか。」
「ああ、そう言えば、この頃はきちんとしているな。いつまで続くか心配だが、この調子が続く事を願ってるぞ。」
「はい。」
ばつ悪そうに和希は答える。
その時奥にいる丹羽に篠宮は気付く。
「丹羽?お前遠藤の部屋にいたのか?」
「ああ、ちょっと用があってな。」
そう言いながら丹羽はドアの側に来る。
「そうか。だが、もう消灯時間だ。一緒に戻ろう。」
「へっ?いや俺は…」
「王様、今日はどうもありがとうございました。」
「か…和希?」
「おやすみなさい、篠宮さん、王様。」
「ああ、おやすみ遠藤。ほら、丹羽行くぞ。」
「お…おう…」
困惑した顔で和希を見る丹羽に、和希はにっこりと微笑む。
「おやすみなさい、王様。また明日。」
そう言ってドアを閉めるとカチャッと鍵を掛ける。
篠宮の後を丹羽はトボトボと歩きながら心の中で叫んでいた。
“今夜はここまでなのかよ。これでお預けなんて酷いぜ和希。”




「Present」のあの夜、和希と王様に何があったのか教えて下さい…と言うリクエストを頂いて書いてみました。
会話での内容でしたが、如何でしたでしょうか?
王様ってばいつも“和希は奥手だからゆっくりと物事を進めないと”と言っているのに、今回はかなり無茶な事を和希にさせていませんか?
きっと王様に「どうしても駄目か?」と言われて、「解りました。今回だけですよ。」と言って引き受けたのでしょうが、後になって自分のした行為にいたたまれなくなった和希は、もう二度と王様の顔が見れないと思ったに違いありません。
いつか書きたいと思っていた和希の「好き」と「愛してる」が書けて嬉しかったです。
しりき様リクエストどうもありがとうございました。




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