Snowball Fight1
「あっ…雪…」
「えっ?」
昼食時の食堂で、窓際に座っていた啓太が声をあげ、一緒にいた和希は窓の方を見た。
「本当だ。どうりで今日は寒いと思ったよ。」
「積もるかな?俺、大きな雪だるま作りたいなぁ。」
「啓太らしいな。」
「何だよ。どうせ和希は大人だから、俺の事子供だなって思ってるんだろう。」
「いいや、俺も作ってみたいな。実は俺、雪遊びってした事がないんだよ。クリスマスに雪が積もった時、王様が雪合戦をやろうって言ってくれて嬉しかったな。」
「何が嬉しかったって?」
「お…王様?」
トレーを持った丹羽と中嶋が来て、和希の前に丹羽が、啓太の前に中嶋が座った。
「で、何の話をしてたんだ?和希。」
「えっ?その…」
照れて顔を赤くしている和希を見て、啓太はクスッと笑うと、
「王様が和希に雪合戦をしようって言った話ですよ。和希、王様に誘って貰って凄く嬉しかったんですって。俺も雪だるまを作ろうって誘ったのに俺の時より嬉しそうにしているんですよ。」
丹羽は嬉しそうに笑うと、
「そういえば、約束したよな。折角やろうと思ったのに和希がへたばったからな。」
「なっ…こんな所で何言うんですか?第一王様がいけないんじゃないんですか。俺、凄く楽しみにしてたのに雪合戦。王様のせいでできなかったんですよ。」
「そういえば和希、クリスマスの日…終業式休んでいたよね。体調でも悪かったの?」
「うっ…」
「啓太、余計な事は聞かない方がいいぞ。」
「中嶋さん?」
「今の会話で解るだろう?」
「えっ?え〜と…」
「まったく、丹羽が遠藤がへたばったと言ってただろう。どうせ丹羽の事だ。“クリスマスプレゼントにお前が欲しい”とか言ってやりすぎて遠藤が動けなくなったというオチだろう。」
「あっ…」
今度は啓太の顔が赤くなった。
「やっと解ったか?まったく鈍い奴だな、お前は。」
ため息を付く中嶋に和希は言った。
「中嶋さん、貴方がどう思おうが貴方の勝手ですが、その素晴らしい想像話を啓太にしないでくれませんか?」
「想像話?本当の事だろう?違うと言うなら今ここで丹羽に確認しても構わないがいいのか?」
「うっ…しないで…下さい…」
「最初から素直になればいいんだ。」
「ヒデ、あんまり和希をいじめるなよ。」
「心外だな。俺はいじめてなどいないが。本当の事を言って何が悪い。」
「はいはい。口でヒデにはかなわねえよ。それよりも、雪明日の朝まで降るらしいぜ。」
「本当ですか、王様?」
嬉しそうに啓太が言う。
「おう!さっきニュースで言ってたからな。明日の放課後、雪合戦やるか?」
「もちろん!!和希もするだろう?」
「ああ。」
「楽しみだなあ。」
「何が楽しみだってハニー。」
「何かええ計画でもあるんかいな啓太。」
トレーの上に山盛りの料理を載せた成瀬と俊介が声を掛けてきた。
「あっ、成瀬さん、俊介。雪が積もるかもしれないから、明日の放課後雪合戦でもしようかって話てたんですよ。」
「雪合戦かぁ。面白そうだね。この雪で練習もできないし、身体を動かすにはちょうどいいな。テニス部の子達にも声を掛けていいかな?啓太。」
「もちろんですよ、成瀬さん。大勢の方が面白いですから。」
「よっしゃ、それなら俺もデリバリー中に宣伝しとくで。明日の放課後でええんやな?」
「うん!よろしくな、俊介。」
「かまへんで。それより遠藤、お前雪合戦なんてした事あらへんやろ。」
「えっ?どうして解るんだ、俊介?」
「そないな気するわ。なんかこう遠藤ってお坊ちゃん育ちって感じがするんや。一生懸命隠しとるつもりやろうけど、バレバレやで。」
「ハハ…」
和希は乾いた笑いをする。
「何、心配する事あらへんで。俺が手取り足取り教えてやるさかい、安心せい。」
「何言ってるんだよ、俊介。遠藤には僕が優しく指導してあげるから俊介の出番はないよ。」
「由紀彦はそんな事したらあかんで。ファンの子に遠藤が睨まれてしまうさかいに、俺が教えるから引っ込んどき。」
「それこそ俊介こそ遠慮したらどう?ねぇ遠藤、遠藤は僕と俊介のどちらに教わりたい?」
「遠藤、俺やろ?」
「えっ…え〜と…」
俊介と成瀬に言われ和希は困っていた。
コレって俺が誰かに雪合戦の事を教わる事が前提の話だよな…雪合戦って誰かに教わらないとできないものなのか?…和希がそう考えていると、
「こら!お前らいい加減にしろよな!和希が困ってるじゃねえか。」
「王様。」
和希はホッと胸をなで下ろした。
もうこれで大丈夫、丹羽が何とかしてくれると安心したが、直ぐにその考えが甘いと思いしらされた和希だった。
「和希には俺が教えるからお前らはいいんだよ。こういう事は学生会会長の仕事だ!」
「あ〜、ずるいで、王様。」
「会長、会長はもう学生会会長じゃないんですよ。元です。元が抜けてますよ。」
「だあ〜ごちゃごちゃとうるせい奴らだな。とにかく俺が教えると言ったら、教えるんだ。いいな、和希!」
「えっ?」
そんな勝手に決めないで下さい…と心の中で叫びながら、和希は丹羽、成瀬、俊介から見詰められて、どうしようかと思案していたが、ふと隣の席の啓太の存在に気付き、
「俺、啓太に教わるからいいです。」
「「「えっ?」」」
鳶に油揚げをさらわれた顔をした3人が言った。
「こういう事は先輩方に教わるよりも同学年に教わる方がいいんです。なあ啓太、いいだろう?」
「うん!俺でよければいいよ。」
「ありがとう、啓太。」
嬉しそうに笑い合う和希と啓太を見て、丹羽と成瀬と俊介は諦めたが、1人不機嫌そうに負のオーラを出している中嶋の存在には誰も気付かなかった。
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