Snowball Fight2

「あっ、和希見て!」
授業が終わったとたん、窓の外を見た啓太が叫んだ。
「どうしたんだ、啓太?」
そう言って窓の外を見た和希も叫んだ。
「雪がやんでる。やったな、啓太。」
「うん!雪合戦出来るね。早く片付けて校庭に行こう、和希。」
嬉しそうに帰り支度を始める二人に藤田が声を掛ける。
「伊藤、遠藤、お前達も出るのか、雪合戦?」
「うん、藤田も?」
「ああ、クラスの奴殆ど参加だってよ。」
「本当?楽しみだな。」
「こういうのは、大人数の方が絶対面白いからな。」
楽しそうに会話をする啓太と藤田。
「そう言えば、遠藤。お前雪合戦初めてなんだろう?」
「えっ?藤田、どうしてそれ、知ってるんだ?」
「休み時間に伊藤に雪玉の作り方を教わってただろう?だからもしかして…と思ったんだ。」
「ははっ…実はそうなんだ。」
「別に恥ずかしがる事でもないだろう?沖縄出身の奴だって知らないって言ってたぜ。それよりもトロい伊藤に聞くなら、この運動神経抜群のこの俺、藤田に聞けよな。」
「藤田〜、トロいって何だよ。失礼だろう。」
「本当の事だろう?気にするなよ。」
「酷いな。」
「まあ、とにかく、俺が教えてやるから安心しろよな。雪合戦の極意を教えてやるからな。」
「極意ねぇ。楽しみにしてますよ。」


そして放課後、1,2年の殆どの生徒が校庭に集まっていた。
さすがに受験があるので3年生は数人だった。
「皆、揃ったか!それじゃ、まず1,2年のチームに分かれて3年は半々になって1,2年のチームに混ざるぞ。3年生はチーム分けするからこっちに集まれ!!」
張り切ってしめる丹羽を見て、苦笑いする和希に、
「ねぇ和希。王様って引退したのに相変わらず学生会会長をしてるよね。」
「本当だよ。あれじゃ、新学生会会長も卒業式当日まで、出番がないんじゃないのか?気の毒に…」
「何が気の毒なんだ、和希?」
「お…王様…」
いきなり和希の後ろから、和希の頭を軽く叩きながら丹羽が声を掛けてきた。
「どうして王様がここに?」
「あー。ほら、チーム分けしただろう?俺とヒデは1年のチームになったからこっちに来たんだよ。それよりも、何が気の毒だって?」
気の毒なのは新学生会会長の事だけど、言える訳ないよな…と和希は思った。
哲也だって悪気があってしている事じゃない、元来の性格がこうなんだから仕方ないと思う。
それよりもチーム分けした3年生ってどんな風に分かれたんだ?
哲也と中嶋さんが同じチームって普通はありえないと思うんだけどな…そんな風に色々考えていた和希に丹羽は待ちきれずに声を掛けた。 「和希?」
「えっ?え〜と…そう、3年生はセンター試験が近いから、参加できない人が多くて気の毒だなって思ったんです。」
「ああ、そうだな。それにもう3年は自由登校になっているから、寮にいないで帰省している奴らも多いしな。でも、偶には息抜きや気分転換も必要だぜ。」
「そうだけど…雪合戦なんてして風邪引いたらまずいじゃないですか。」
「そうか?まあ、そんな事どうでもいいか。それじゃ、やるか、雪合戦!」


丹羽の合図でいよいよ始まろうとしていた時、啓太と中嶋が両手に何か白い丸い物が入ったバケツを持ってきていたのに、和希は気が付いた。。
「啓太、それ何だ?」
「中嶋さんの秘密兵器。夕べ中嶋さんと一緒に作ったんだ。」
「秘密兵器?」
「うん!」
嬉しそうに答える啓太。
和希はバケツの中を見ると、そこにはキラキラと光る丸い雪玉がいっぱいあった。
「凄い綺麗だな。」
「そうだろう?これ普通の雪玉と違うんだよ。作って一晩経つと、雪玉がカチンコチンに固まるんだ。だから当たると痛いんだよ。」
「えっ…?まさかこれ使うのか?」
「そのまさかだが、何か文句でもあるのか、遠藤?」
ビクッとして和希は恐る恐る後ろの中嶋を見る。
「中嶋さん、俺は別に…」
「何か文句が言いたそうな顔をしているぞ。」
「やだなぁ、そんな事ある訳ないでしょう?中嶋さんの気のせいですよ。なあ、啓太。」
いきなり振られて啓太も焦った。
「う…うん!気のせいだよな。ねぇ、中嶋さんどこら辺で投げますか?俺あそこがいいなぁ。移動しませんか?」
「ああ、啓太がそう言うなら。」
「じゃ、行きましょう。」
和希に軽く手を振ると、バケツを持って2人は移動していった。
残った和希はホッとため息を付く。
「危なかった…」
「ああ、危ねえよな。あんなカチンコチンの雪玉をヒデが本気で投げたら、怪我人が出るぜ。まあいくらヒデでもその辺は考えて投げるんだろうけどよ。ヒデと同じチームで良かったな、和希。」
「王様、そういう事じゃないでしょう?」
「他に何があるんだ?まあ、2年の奴らはがたいがいいから、当たっても青あざ作って終わりだから別に構わないだろう?」
ヘラッと言う丹羽に呆れる和希だったが、まあ、怪我人がでなきゃいいか…なんて理事長らしからぬ事を考えていた和希の顔に雪玉が当たった。
「うわー!冷たい!」
前髪に付いた雪を払いながら和希は言う。
「ほら、和希。ボウ〜としてるとまた当たるぞ?さっさと雪玉を作ってお前も投げろよ。面白いぜ!」
「はい!王様!」
初めて体験する雪合戦は楽しくてたまらなかった。
しゃがんで雪玉を作って投げる。
もちろんその間に自分が雪玉に当たらない様によけなくてはならない。
結構、体力と運動神経がいる。


「和希、いったい幾つ雪玉に当たったの?」
呆れた顔で言う啓太に和希は笑って答えた。
「う〜ん。沢山当たったから覚えてないよ。でも、凄く楽しかったよ。」
ニコニコ笑って答える和希。
そんなに嬉しかったんなら、別にいいけどね。まあ王様の隣にいたから王様がよけた雪玉を代わりに和希が当たってんだから仕方ないとは思うけど、全身雪まみれっていうのはちょっと…と啓太は思ってしまった。
髪なんて完全に濡れてるし、ダッフルコートも既に濡れていて重そうだ。
「面白かったんだ、和希。」
「うん!こんなに面白いなんて思わなかったよ。」
「なら良かった。それよりも急いで寮に帰らないと風邪引くよ?」
「あっ…うん。じゃあ、鞄を取りに教室に戻ろう。」
「遠藤!!」
「えっ…?」
バシャッ……
「和希!」
啓太が叫ぶ。
そこには、頭から雪をかぶって、座り込んでいる和希の姿があった。
「俊介!何するんだよ!幾ら何でもやりすぎだよ!和希、大丈夫?」
「うん…大丈夫だから…」
「大丈夫な訳ないだろう。おい!サル君!俺の和希になんて事してくれたんだ。雪が山盛りなバケツを和希の頭の上からかけるなんて、いい根性してるじゃねえか!」
「い…いや…やったのは確かに俺やけど、考えたのは由紀彦やで。遠藤がずぶ濡れやから、濡れついでにもう少し濡らそうかって言うたの。」
「ほう〜、2人して考えたんだな。」
「王様、俺平気ですから。だたの悪ふざけだから気にしてませんから、もう止めて下さい。」
「でもよう。」
「本当にもう平気です。折角楽しかったのに、怒っちゃ駄目ですよ。俺はもう大丈夫ですよ、ねっ、ほら。」
啓太に払って貰ったので、雪はもう殆どついてないが、さらに全身ビショビショになっていた。
ついでにいうなら、雪の上にしゃがみ込んでしまった為に、ズボンまで濡れてしまっていた。
「ったくよう、和希がそう言うなら仕方ねえか。」
「はい。気にしないで下さいね、おうさ…クシャン!」
くしゃみをした和希の頬を丹羽は触ると、
「お前、こんなに冷てえるじゃねえかよ。早く寮に戻らないと風邪引くぞ?」
そう言うと、和希の着ているダッフルコートを脱がせる。
「お…王様、何するんですか、こんな所で?」
「何もしねえよ。そんなずぶ濡れのコートをいつまでも着てるんじゃねえよ。」
脱がせたコートを丹羽は俊介に投げ、
「おい!サル君。それ寮のクリーニングに出しておけよ。それと俺の鞄だが教室に置いてあるからヒデに渡しといてくれ。今回は学食チケットは出さねえぞ。これでさっき和希にした事チャラにしてやるからな。啓太、和希の鞄よろしくな。」
「はい、王様。明日の朝まで俺の部屋で預かっておきますので、安心して下さいね。」
「頼むわ。」
そう言うと、丹羽は自分のジャケットを脱ぎ、和希にかける。
「えっ?いいですよ。王様が風邪引いちゃいますよ。」
「そんなヤワじゃねえよ。それよりも早く俺の部屋に行くぞ。まずは風呂に入って暖めないとな。」
そう言って和希を抱き上げると、丹羽は耳元で優しく囁く。
「その冷えた身体、今俺が暖めてやるからな。」
「なっ…」
丹羽の腕の中で真っ赤になっている和希を嬉しそうに見詰めながら、丹羽は寮に向かって走り出した。



以前、お題『愛が足りないぞお前』を書いた時、その話の中に「学生会主催の雪合戦をしよう」という内容を書いたんです。
それを読んで下さった方から「雪合戦で雪まみれになる和希が見たい」というコメントを頂いて今回の話を書かせて貰いました。
いかがでしたでしょうか?
お気に召したか解りませんが、とても楽しく書けて、管理人は幸せいっぱいです。
さて、1番災難だったのはいったい誰だったんでしょうか?
管理人は中嶋氏が作った1晩経った雪玉が当たった人だと思ってますが、皆様は誰だと思いますか?
 2008/1/21

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