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「遠藤!」
サーバー棟の手前で丹羽に声をかけられ、和希はビクッと身体を震わせて声のする方を一瞬振り向いたが、すぐにサーバー棟へ向かって走り出した。
サーバー棟へ入られたら、いくら丹羽でも中に入れない。
和希を捕まえるならここでしかない。
ダッシュをした丹羽は入り口近くで和希の腕を掴んだ。
「離して下さい、王様!」
「俺の話を聞き終わるまでは離さねえよ。」
「俺は王様と話す事なんて何もありません!」
「お前になくても俺にはあるんだよ。」
「いい加減にして下さい。早くその手を離して下さい!」
和希がいくら暴れても、所詮丹羽の力に敵うわけはなく、暫く抵抗していたが、諦めて大人しくなった。
和希はため息を付きながら聞いた。
「話って何ですか?」
「おっ、やっと聞く気になってくれたか。」
嬉しそうに丹羽は笑う。
「時間がないんです。手早くお願いします。」
「遠藤、俺はお前が好きだ!」
「…」
「遠藤?」
「…」
「おい遠藤、人の話聞いているのか?」
「…聞こえてます。何の冗談ですか?」
「冗談?俺は本気だ。」
「俺が誰だか分かっていて言ってるんですか?貴方が嫌いな理事長なんですよ。」
「分かってるさ。だけど、好きになってしまったもんはどうしようもないだろう。」
「俺は貴方より年上なんです。」
「どう見ても俺より年下にしか見えないけど、そうなんだろうな。」
「第一俺は男です。普通告白って女性にするものでしょう。」
「そうか?好きになったら、そんなの関係ないんじゃないか?」
和希は困ってしまった。
王様の事は好きだが、自分は理事長なので生徒と付き合う訳にはいかない。
どんなに好きでも諦めなくてはならないのに…
これ以上自分の心を乱さないで欲しかった。
「王様、俺は…」
「俺の事、好きか?それとも嫌いか?」
「え…ええと…」
出口のない迷路に迷い込んだ気分だった。
自分はどう答えれば良いのだろう…
本心を言った方が良いのだろうか。
好きだけど、理事長だから付き合えないと。
でも、そんな答えで王様は納得しないだろう。
おそらく答えは“NO”だろう。
自分自身だって今こうして王様に告白されてすごく嬉しいのだ。
その気持ちを隠して断る自信が今の自分にはない。
「遠藤、どっちなんだ?」
「分かりません…」
「はぁ、分からない?」
「好きか嫌いかと聞かれてもよく分からないんです。」
丹羽は唖然とした顔をして、暫く考え込んでいたが
「分かった。俺と付き合え。」
「えっ?」
「付き合えば答えが出るだろう?」
自信に満ちた頼もしい顔で丹羽は言った。
完敗だ…と和希は思った。
口で何と言おうとも自分は王様の事が好きなのだから、どうしようもなかった。
和希は俯きながら小さく頷くと、丹羽の肩にそっと頭を付けた。
それが今の和希にできる精一杯の想いだった。
そんな和希を丹羽は優しく抱きしめていた。


-fin-

王様に押し切られてのスタートです。 和希は心の中では葛藤していますが、幸せ一杯だと想います。 大好きな王様に告白されたのですから… 二人には幸せになって貰いたいです。




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