Worry Be Worried 1

「王様!」
学生会室を出て少し歩いた廊下で丹羽は走ってきた和希に声を掛けられた。
「遠藤、どうしたんだ?」
丹羽の前で少し呼吸を整えると和希はニコッと笑い
「良かった、会えて。探してたんです。」
「俺を?何かあったのか?」
「これを貴方に渡したくて探してたんです。」
赤いリボンが付いて綺麗にラッピングされているクッキーを和希は丹羽に差し出した。
「クッキー?」
「はい、今日の調理実習で作ったんです。今できたばかりだから、まだ温かいんですよ。温かいうちに王様に食べて貰いたくて、あっちこっち探しちゃいましたよ。」
和希から受け取ったクッキーは確かにまだ温かかった。
丹羽はリボンを解き、中のクッキーを一つ取ると口の中に入れた。
「うん!旨い!!」
「本当ですか?王様。」
「ああ、凄く旨いぞ、これ。」
「良かった、王様の口に合って。頑張って作ったかいがありました。」
嬉しそうに笑う和希の笑顔に、丹羽はグッとくるものを感じた。
「遠藤…」
顔を近づけてキスをしようとした丹羽の唇を、和希は両手で遮る。
「ダメですよ、王様。ここ廊下ですよ。いつ、誰が通るか分からないんですよ。」
「ちぇっ、じゃあ廊下じゃなければいいのか?」
「えっ…?」
戸惑う和希の手を引っ張り丹羽はすぐ側の、この時間は使われていない教室へ和希を連れて行きドアを閉めた。
「ここなら誰も来ないだろう…キスしてもいいか?」
「え…えっと…もうじき授業が始まる時間なんですけど…」
顔を少し赤くしながら、丹羽の顔を見ずに和希は答える。
「そんなの少しぐらい遅れたって構わないだろう?」
そう言うとそっと唇に触れるキスを数回繰り返す。
いつのまにか丹羽の背中に手をまわしていた和希は、その手を戻しながら
「王様、そろそろ戻りましょうか?これ以上遅刻するのはまずいでしょう。」
そう言って丹羽の側から離れようとする和希を丹羽は自分の方へ引き寄せる。バランスを崩した和希は丹羽の胸に寄り掛かった。
「王様?今日の王様なんか少し変ですよ?」
「うん?そうか?」
「そうですよ。本当にどうしちゃったんですか?」
下から覗き込みながら、心配そうに丹羽を見つめる和希。
「遠藤!!」
丹羽は強引に和希の口の中に自分の舌を入れ絡ませる。
初めての行為に和希の身体がビクッと震える。
それさえも今の丹羽には愛おしくてたまらなかった。
そのまま手をシャツの中に滑り込ませ、和希の肌に直接触れる。
「や…やだ…王様…」
和希が抵抗しても、丹羽はその手を休める事はない。
そして丹羽の手が和希のズボンに触れた時、和希の限界がきた。
力の限り丹羽を突き飛ばすと
「やだって言ってるのに…どうして止めてくれないんですか?王様なんて…王様なんて大キライだ!!」
そう叫んで教室から走り去って行った。
一人残った丹羽はその場に座り込むと、頭をガシガシとかいた。
「はぁ〜やっちまった。まずかったな。」
遠藤を大事にしようと思ってたのに。あいつは奥手だからゆっくりと物事を進めていかないとダメだと分かっていたのに…今回は止められなかった。
「ったく、ヒデの奴が悪いんだからな。」
完璧な八つ当たりだと分かっていても、当たらずにはいられなかった。
今朝5時頃なぜか目が覚めたので、缶コーヒーでも飲もうかと思い部屋を出ようとドアを開けた時、ちょうど隣の中嶋の部屋のドアが開いた。
「こんな時間に?」
丹羽が思った時、中嶋の部屋から出て来たのは啓太で周りをキョロキョロと見回しドアを閉めようとしたその時
「忘れ物だぞ、啓太。」
「えっ?」
中嶋の手が啓太の腰に回り、深い口付けが始まった。
丹羽は気づかれないようにソッとドアを閉めて、ため息を一つ付く。
「ったく、朝っぱらから廊下で盛るんじゃねぇよ。あの様子じゃ啓太は夕べヒデの部屋に泊まったんだな。」
ヒデ達と俺達は違う。
頭の中でいくら理解していても、ああいう場面に出くわすと妙に自分達の関係が不安になってくる。
別に身体を繋げれば安心できるという訳ではない。
遠藤は遠藤なりに精一杯俺の事を愛してくれているのは分かっている。
少々意地っ張りで素直じゃない所はあるが、それはそれで俺にとっては遠藤の可愛らしさの一つでもある。
だから、さっきみたいに調理実習で作った物を渡す為に、額にうっすらと汗を掻くぐらい俺を捜して走り回っていた遠藤を見たら、愛おしさが積もってつい止まらなくなってしまった。
いや、いつもなら、もう少し理性が働いて止められたはずだった。
やっぱり今朝の事が尾を引いているのは間違いなさそうだ。
「あーあ、何て言って遠藤に謝ろうかな。」
そう言って立ち上がった丹羽はふとある事を思って苦笑いをした。
遠藤の事だ。
あの様子じゃ啓太に何があったかって問い詰められて、すべてを話してしまうんだろうな。
そうすれば啓太からヒデに話がまわって俺はまたヒデに嫌みの一つ…いや説教の一つでもくらうんだろう。
で、気が付けば、何となく元通りといういつものパターンが待っている。
持つべき物は、お互いの親友という事かな…そう考えながら丹羽は教室を出て行った。




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