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和希のお誕生日まで後5日

『うーんと……じゃあキス10回分で』(西園寺×和希)

「あっ、西園寺さん、七条さん、こんにちは。」
移動教室から教室に戻る途中で和希と啓太は西園寺と七条に会った。
「こんにちは。伊藤君、遠藤君。教室移動の帰りですか?」
「はい。よく分かりますね。」
「ふふっ。だって二人とも教科書を持って1年の教室に向かっているでしょう?」
「あっ、そうか。」
七条の観察力に啓太は感動して言った。
「和希、顔色が悪いな。」
「えっ?そうですか?」
「西園寺さんもそう思いますか?」
「ああ。それ程ではないが、少しな。」
「さすがですね、郁。愛がなせる業でしょうか?」
「臣、からかうのはよせ。啓太だって気が付いていただろう。」
「伊藤君は特別ですよ。いつも遠藤君の側にいるのですから。でも、普通は気が付きませんよ、僕みたいにね。ねえ、遠藤君。」
いきなり話をふられて焦る和希。
「えっ…あ…そうですね。俺も啓太以外には誰にも言われませんでしたから。」
「ほらね、郁。」
嬉しそうに笑いながら七条は西園寺に同意を求める。
そんな七条を見て、西園寺はため息を付く。
この男…七条の観察力は侮れないものがある。
和希の顔色の変化に気付かないわけがない。
なのに、わざと気付かないふりをする。
こういう所が七条らしいのだが、今はそういう所がおもしろくないと西園寺は思っていた。
「臣、わざとらしい事を言っても私には通じないぞ。それよりも和希、私と一緒に来い。」
西園寺はそういうと和希の手を掴み、歩き出した。
「さ…西園寺さん…」
焦る和希を無視して西園寺は後ろを振り返ると、
「啓太、和希は3・4時間目の授業は休むからその旨を教科担当の教師に伝えておけ。」
「はい。午後の授業はどうしますか?」
「午後の授業には戻す。」
「わかりました。」
元気よく返事をする啓太に和希は救いを求める声を出した。
「啓太〜」
「偶にはゆっくりと休む事も必要だよ。休んだ分の授業のノートは取っておくから安心してね。」
「いや、そう言う事じゃなくて…」
「和希、いつまでもうるさいぞ。さっさと歩け。」
「あっ…はい。」
西園寺に叱咤されて歩き出した和希を見ながら、
「これで少しは休めるかな?」
「郁が付いているんです。大丈夫ですよ。」
「そうですね。最近仕事が忙しいせいか、和希ちょっと寝不足みたいで俺心配していたんです。」
「遠藤くんにはもう少しご自分の身体を大切にしてもらわないと困りますね。そうしないと、いつまで経っても郁は遠藤くんの保護者みたいに遠藤くんの体調管理の心配をしてますから。」
七条の言葉に啓太は思わず噴出してしまった。
そんな啓太を見て七条も楽しそうに笑っていた。

「西園寺さん、どこに行くつもりですか?」
「付いてくれば、わかる。」
そう言って歩み続ける西園寺の後を和希はついて行った。
だが、いくら周りに誰もいないとはいえ、いつまでも手を握って歩くのは恥ずかしい。
でも、その手を払わないのは西園寺の手から伝わる温もりが嬉しかったから。
もう少しこの温もりを味わいたいと和希は思っていた。
「着いたぞ、和希。」
「ここって、東屋ですよね。」
「ああ、そうだ。」
西園寺は和希の手を引き、東屋の椅子に座らせるとその隣に自分も座った。
そして、和希の肩を優しく掴むと自分の方に引き寄せた。
バランスを崩した和希は西園寺の膝の上に頭を乗せる形になる。
慌てて和希は起き上がろうとするが西園寺はそれを阻止し、
「このままでいろ。」
「だって、これって…」
「何だ、気に入らないのか?」
「そうじゃありません。だけど…」
「だけど?」
「こんな事、西園寺さんにしてもらうわけにはいきません。」
頑固として起き上がろうとする和希に西園寺はため息をつきながら、
「和希、西園寺ではない。」
「は?」
「二人っきりの時はどう呼ぶか教えたはずだ。」
「あ…か…郁…」
頬を淡く染めながら恥ずかしそうに和希は言う。
もう何度も呼ばせているのに、毎回恥らうように言う和希に西園寺は苦笑いをする。
「そうだ。二人っきりの時はそう呼べ。」
「はい。」
「それから、お前はまた無理をしているだろう。」
「えっ?そんな無理なんて…」
「してるだろう?その顔色は間違いなく寝不足の顔だ。」
「うっ…」
「違うか?」
「…違いません…」
視線をずらしながら和希は言う。
まるで悪いことをして見つかった子供のような仕草に西園寺の顔に微笑みが浮かぶ。
「なら、暫くこうしていろ。」
「郁。」
「いいな。今日は晴天だし心地よい風が吹いている。昼寝をするにはちょうどいい気候だ。」
そう言うと西園寺は自分の手のひらをを和希の目の上に置いた。
暖かい西園寺の手が和希の疲れた目に安らぎを与える。
「どうだ?気持ちいいだろう?」
「はい。ありがとうございます。」
「礼などいらない。当然の事をしたまでだ。」
「それでも、嬉しいです。そうだ。今度今日のお礼をさせて下さい。」
「お礼?」
「はい。何がいいですか?」
「そういう気遣いは無用だ。」
「駄目ですよ、郁。親しき仲にも礼儀ありって言うでしょう。何か考えて下さい。」
こういう所は頑固だと西園寺は思った。
だが、そういう和希が好きなのだ。
なかなか答えが返ってこないので痺れを切らせた和希は、
「何か思いつきましたか?」
「いや…」
「なら、俺が考えてもいいですか?」
「ああ。」
「何にしようかな?」
和希は嬉しそうに微笑みながら、
「うーんと……じゃあキス10回分で」
「キス10回分?」
「はい。郁が望む時に俺からキスを10回送ります。どうですか?」
「珍しいな。そんな事をお前が言うだなんて。」
西園寺は驚いた顔をしていた。
「偶には積極的な俺もいいでしょ?」
「そうだな。なら、さっそく1回目のキスをお願いしようか。」
「えっ?今ですか?」
「ああ。」
「分かりました。」
耳まで真っ赤にしながら、和希は身体を起こすと西園寺の首に手を回し、柔らかな唇をそっと近づけるのでした。

寝不足の和希に昼寝をさせようと東屋に連れてきた西園寺さん。
でも、和希の『キス10回分で』でちょっとだけ予定が変わってしまいました。
恥ずかしがりやの和希からの滅多にないキス。
西園寺さんはもの凄く嬉しかったと思います。
幸せなキスの後は2人仲良く昼寝をして下さいね。
            2011年6月4日

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