Another Addition 2
ただ、側で中嶋さんを見ているだけで満足だった
でもそれは中嶋さんが誰か1人を特別に見ていない事が前提の事だったなんて、あの時の俺には解らなかった
ある日気付いてしまった中嶋さんの視線
その視線の先にいる人は俺が大切に思ってた人…伊藤啓太だった
そしてその時俺の心にチクッと痛みが走ったが、俺はあえてその痛みを無視した…
啓太がここベルリバティスクールに入学して数日が過ぎたある日、和希が出張中に起こった事件…退学勧告宣言。
勝手な真似をした久我沼に腹を立てたが、理事会で決まった事はいくら和希でも簡単には覆せないので、学園MVP戦を開く事にした。
「啓太、MVP戦のペアの相手はもう決めたのか?」
和希の問いに啓太は頬を少し赤らめながら答えた。
「和希、俺MVP戦の相手、中嶋さんに頼んでみようかと思ってるんだ。」
和希の胸にチクッと小さな痛みが走る。
「中嶋さんに?」
「うん。今から頼みに行く所なんだ。」
「そうか…大丈夫だよ。中嶋さんならきっとO.K.してくれるよ。」
「そうだといいんだけどな。それじゃ、俺行ってくるね。」
学生会室に向かって走って行く啓太。
「大丈夫だよ、啓太。中嶋さんは啓太の願いは必ず叶えてくれるから。」
見えなくなった啓太の方を見詰めながら、和希はそっと呟いた。
きっと、このMVP戦を通して啓太と中嶋さんは親しくなるだろうと確信していた。
今の啓太は自分の気持ちに気付いてはいない。
けれど、中嶋さんとペアを組めば、きっと気付くだろう。
中嶋さんの熱い視線とその想いに…そして啓太自身の気持ちにも…
啓太がその気持ちに気付いたら、2人は間違いなく恋人になるだろう。
その時、俺は心から祝福できるだろうか?
見ているだけでいいと思ってたのに、どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう…
いたたまれない気持ちを抱えたまま手芸部の部室に向かっていた和希は廊下で丹羽に会い、声を掛けられた。
「よお!遠藤!」
「王様、いつも元気ですね。」
「おう。それよりもさっき啓太が学生会室に来て、ヒデにMVP戦の相手を頼んでたぜ。」
「ええ、知ってます。さっき頼みに行くと啓太が言ってましたからね。もちろん、中嶋さんO.K.したんですよね。」
「ああ、即答だったんで俺も驚いたんだがな。啓太の奴、えらく喜んでいたぜ。」
「そうですか…良かった。」
ふわりと笑う和希に丹羽はドキッとする。
丹羽は気付かなかったが、その笑顔は少し寂しげだった。
「なあ、遠藤。お前はその…出ないのか?MVP戦に。」
「俺ですか?はい、出ません。特に理事長に叶えて貰いたい願いもありませんしね。」
「啓太の事はいいのか?」
「えっ?」
「啓太にここに残れる様に理事長に頼まなくてもいいのか?」
「それは、啓太が自分で掴まなくては意味が無いと思いますが。」
「いやにシビアなんだな。」
「それが啓太の為でしょう?他人の力じゃなく、自分の力で勝利を掴む。そうやってこそ、ここに残る意味があると俺は思ってます。」
「そうか。」
「はい。大丈夫ですよ、王様。そんな顔をしなくても。啓太はああ見えても土壇場に強い子だし、なんたって強運の持ち主なんですからね。それよりも、王様はMVP戦に出るんですか?」
「俺か?俺は出ないぜ。」
「出ないんですか?理事長は何でも願いを叶えてくれるんですよ?」
「俺も遠藤と同じだよ。理事長なんかには頼まないぜ。叶えたい願い事なんて自分で叶えてみせるぜ!」
「頼もしいんですね、王様は。」
「おうよ!だから“王様”って呼ばれてるんだぜ。」
クスッと笑う和希を見ながら丹羽は心に誓う。
必ず遠藤に惚れて貰える様な男になると。
そして、必ず遠藤と恋人になるんだと。
もしも…啓太と中嶋さんが恋人になったら、その時俺はどう思うんだろう
きっと啓太の為に祝福をしているんだろうな
でも…俺の想いはどうなるんだろう
俺の想いはどこにいくのだろう
ただ、見詰めているだけで満足してたはずじゃなかったのだろうか
見詰めているだけで、幸せだったはずなのに
なのに、この胸に渦巻く不安は何なんだろう
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