Another Addition 5

その一言を聞いた時
解っていた結果なのに
なぜか胸が締め付けられた
悪いのは啓太じゃない 中嶋さんじゃない
でも…
辛くて誰かのせいにしたかった


放課後の誰もいない教室で啓太は和希に言った。
「ごめんね、和希。呼び出して。」
「いや、大丈夫だよ。何か大事な話なんだろう?」
「うん…あのね…」
言い淀む啓太に和希は優しく語りかける。
「んっ?何だ、啓太。」
和希に優しく見詰められて、啓太は決心して大きく一呼吸をすると、
「俺、中嶋さんと付き合う事にしたんだ!」
「そうか、おめでとう啓太。」
「和希…?その…何とも思わないの?気持ち悪いとか、男同士で変だとかさ。」
「別に。日本ではまだそういうのって、偏見があるみたいだけど、海外じゃ珍しくもないし。俺の友人にもいるぜ。男同士で付き合っている奴。」
ほっとため息をつく啓太に、和希は微笑んで言った。
「もしかして、そんな事で悩んでたのか?馬鹿だなあ、啓太は。」
啓太は頬を膨らませると、
「馬鹿はないだろう、和希。これでも覚悟して言ったんだからな。」
「覚悟?」
「そうだよ。嫌われたらどうしようって夕べから散々悩んだんだからな。」
「悪い。そんなに気にしてるとは思わなかったよ。中嶋さんって一見冷たそうに見えるけど、口数が少ないだけで優しい人だよな。」
啓太の顔がパッと明るくなる。
「和希も?和希もそう思う?中嶋さんって誤解されやすい人なんだよね。でも俺、和希が解ってくれて凄く嬉しいよ。」
「解ったから、そう興奮するなよ啓太。」
「えっ…」
赤い顔をした啓太を和希は優しく見詰める。
「俺…MVP戦の後、理事長室で和希が本当は理事長でカズ兄だと知った時、驚いたのと同時に今まで黙っていた事に腹を立てたんだ。凄く悔しかったんだ。」
「啓太…」
「でもそれは和希にも話したくても話せなかった理由があるって解ったし、和希が“今まで通りクラスメートで親友でいて欲しい”って言った言葉が凄く嬉しかったんだ。だから俺、隠し事はしたくなかったんだ。たとえ和希に嫌われても、親友じゃなくなっても、中嶋さんとの事隠して付き合いたくなかったんだ。」
そこまで言うと啓太は一息付いてニコッと笑った。
「ありがとう、和希。俺、嬉しいよ。」
MVP戦で優勝した時よりも嬉しそうに言う啓太に、和希は上手く笑えたか自信がなかった。


これから学生会室に手伝いに行くんだという啓太と別れて、和希は1人サーバー棟へと向かうが、その足取りは重く途中のベンチに腰掛けるとため息を付いた。
「あの小さかった啓太に恋人ができたのか…大人になったんだな…」
あの夏の日、和希に幸せを与えてくれた小さな子供だった啓太、行かないでと泣いて和希に縋った啓太は、もう15歳になり、自分をしっかりもち、めげる事なく学園MVPを見事に勝ち抜き、そしてペアだった中嶋と恋人同士になった。
親友として啓太の恋を応援してあげたかった。
でも、相手が自分が想いを寄せている中嶋だから心の底から祝えるか不安だった。
そんな思案顔の和希の姿を、校舎の廊下の窓から丹羽がじっと見詰めている事など和希は知らなかった。


祝ってあげたいのに
誰よりも大切な啓太の恋だから
あの夏の日に俺に生きる素晴らしさを教えてくれた啓太に
俺は誰よりも幸せになって貰いたかった
でも…どうしてなんだ 啓太
啓太の好きになった相手が どうして中嶋さんなんだ
どうして…






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