Beginnig 5
思いかけず今日の仕事が早く終わった和希だった。
最近は結構忙しくて、門限ギリギリか、日付を変えてから帰ってくる事が多い。
この時間なら、まだ中嶋さんは学生会の仕事で学校にいるかもしれない。
そう和希は思いながら、早足で学生会室が見える場所まで行くとやはりまだ学生会室には電気がついていた。
夜に中嶋に会う事など滅多にない和希は嬉しそうに校舎に入ると学生会室をノックしようとして、ふと手が止まった。
僅かだが開いている学生会室から聞こえる中嶋と丹羽の会話。
「なあ、ヒデ。最近遠藤はよく学生会の手伝いに来るな?」
「なんだ?不服か?哲っちゃん。」
「いや、そうじゃなくてよ。俺、最近遠藤が可愛く見えてきたんだ。」
「ほう…それで?」
「それでって。あいつに恋人がいるって話は聞かないしよう。俺、告白してみようかと思ってるんだ。」
「そうか。」
「そうかって…で、どう思うヒデ?」
和希はドキッとしながらその続きを待った。
丹羽が和希を好きと言った事よりも、その後の中嶋の反応が気になったのだ。
「別に、告白するかしないかは、お前の自由だろう。なぜ、いちいち俺に聞く。」
「う〜ん。何ていうかさあ、お前と遠藤って仲がいいだろう?だからもしかして俺に隠れて付き合ったりしてるのかなって思ったんだ。」
頭をガシガシ掻きながら丹羽は少し困った風に言った。
そんな丹羽に中嶋は、
「別に遠藤とはそういう仲ではない。丹羽、お前が遠藤と付き合いたければ告白でも何でもすればいいだろう。」
「いいのか?良かったぜ。俺、親友の恋人を奪う真似だけはしたくなかったんだ。」
和希はそっと扉から離れると、その場から離れていった。
和希は寮へは向わずにそのままサーバー棟に向って歩き出した。
胸が苦しい…そう和希は思っていた。
目からは涙が零れそうになっていた。
サーバー棟に戻った和希は理事長室に入ると、その場に座り込んだ。
「どうして…」
限界まで我慢していた涙が零れる。
その涙を和希は拭おうともしない。
『好きだ。俺の勝手な想いだ。お前は気にする必要は無い。』
『お前が望むならいつでもお前の側にいてやる。だから安心するがいい。』
確かにそう言ってくれた中嶋さん。
でも、俺はその想いには答えなかった。
だってまだ心の中には七条さんがいたからだ。
でも…最近は七条さんの事なんて考えもしなかった。
気付くといつも中嶋さんの事ばかり考えていた。
いつの間にか、和希の心は中嶋でいっぱいになっていた。
それに、やっと今気付いた和希だった。
でも、それは同時に失恋でもあった。
中嶋の『別に遠藤とはそういう仲ではない。』という台詞がエコーする。
好きだってやっと気付いたのに…
「どうして…どうして俺の恋は上手くいかないんだ…」
膝に頭をつけると和希は声を殺して泣き出した。
だから、和希は知らない。
和希が学生会室から去った後の会話を…
嬉しそうに浮かれている丹羽に中嶋は言った。
「丹羽。俺は告白するのは自由だと言った。だが、1つだけ忠告しておく。お前の告白は無駄に終わるぞ。」
「はあ?どういう意味だよ、それ?」
「知りたいか?」
「ああ。」
ニヤッと中嶋は笑うと、
「遠藤は俺の物だからだ。」
「ああ?だってお前今付き合ってないと言っただろう?」
「確かに付き合ってはいないが、遠藤は俺に惚れてるからな。」
「何だよ、ヒデ。それじゃ俺が告白しても無駄じゃないか。」
「そうだな。」
「そうだなって。ちぇっ、無駄な期待をさせやがって。」
「ふん。遠藤を好きだと言うわりにはあいつをよく見てないお前が悪い。」
「へーへー、そうですか。まあ、仕方ねえか。遠藤がヒデがいいって言うんならお前に譲るぜ。」
「譲るも何も、最初からあいつは俺の物だ。」
「解ったよ。さっさと告白でもして幸せになれよ。」
「お前に言われなくてもそうするさ。」
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