どんな微笑よりも…10

中嶋の家に着いた和希は驚いて口も聞けなかった。
1人暮らしだと言っていた中嶋の家は、1人で暮らすにはあまりに広い家だったからだ。
「どうした?中に入るぞ。」
中嶋に言われ、和希は慌てて中嶋の後に付いて家に上がると、
「お邪魔します。」
一言そう言った。
すると、側で中嶋がフッと笑い、
「今日からここがお前の家になるんだ。“お邪魔します”ではなく“ただいま”と言え。」
「あっ…はい…」
和希は戸惑った顔をして答えた。


こらからのここでの暮らし…それは和希にとって酷く不安なものだった。
遊郭に行く代わりに来たからだ。
借金のカタにきた事には変わりなかった。
借金の利子の金額分、和希はこれからここで中嶋に抱かれなくてはならないのだ。
まだ恋もした事がない和希。
人を愛しいと想う気持ちすら知らない内に好きでもない人に抱かれなくてはならないのだ。
本来なら好きになってお互いを求めて初めて身体を繋げるその行為を和希は何も解らないうちに行わなくてはならない。
けれども、大切な家族を守る為ならどんな大変な事でも堪えてみせると和希は思っていた。


家に入ると中嶋はソファーに座り和希に向って言った。
「まず、服を脱いでもらおうか。」
「なっ…そんな…出来ません…」
顔を赤くして答える和希に中嶋は、
「出来ない?貴様は何の為にここに来たか解っているのか?家の借金の為だろう?」
「…はい…」
「利子分、俺に抱かれる契約じゃなかったのか?」
「…そう…です…」
俯きながら和希は言った。
「なら、さっさとしろ。」
中嶋の冷たい一言に、和希は黙って制服を脱ぎ始めた。
ボタンを外す手が振るえ、上手い具合にボタンが外れなかったが、何とか全て外し中嶋の言うように身につけている物を全て脱ぎ去った。
中嶋は満足そうに和希を見ながら、
「思った通り、綺麗な肌をしているな。しかも触り心地も良さそうだ。和希、お前は今まで誰かに触らせた事があるのか?」
和希は黙って首を横に振った。
「そうか。ならこれから俺がお前に全てを教えてやる。そして俺なしでは生きられない身体にしてやるから楽しみにしてろよ。」
和希の身体がビクッと震えた。
自分はこれからどうなってしまうのか不安でたまらなかった。
本当は逃げ出したかったがそれもできない。
こっちに来いと言う中嶋の言葉に和希は黙って従うしかできなかった。


あれからどのくらい時間が経ったのだろうか?
和希はベットの中で目が覚めた。
窓からは光が差しているのでもう朝には違いなかった。
ふと周りを見まわしたが、そこには中嶋の姿はなかった。
身体を起こそうとした和希は身体全体の痛みに動かす事ができなかった。
「どうして…」
暫く考えてた後、和希は昨夜の出来事を思い出し顔が真っ赤になった。
昨夜、和希はここで中嶋に抱かれた。
初めての行為はただ痛みと屈辱しかなかった。
信じられない程の恥ずかしい事をされ、何度止めて欲しいと頼んだだろうか。
けれども、そんな和希の願いは叶えられるはずもなく一晩中中嶋の好きにさせられたのだった。


和希の目から涙が零れてきた。
昨夜で終わりではなく、これからこれがいつまで続くのかと思うと自分の考えの甘さに心底呆れてしまっていた。
男だから抱かれても大丈夫だと思っていた。
けれども、その考えがいかに甘い考えだったかを昨夜中嶋からたっぷりと教わった。
「紘司にいさん…」
和希はその名をそっと呟いた。
辛かった時、悲しかった時、いつも側にいてくれた篠宮。
和希にとって意識はしていなかったがその存在はとても大きいものだった。
しかし、今和希の側にいつもいてくれた篠宮はここにはいない。
和希はギュッと手を握ると自分自身に言い聞かせた。
大丈夫だと…自分がここで頑張れば紘司にいさんが助かるのだからと…


和希は痛む身体を気遣いながらベットから下りようとして床に足をつけ立ち上がろうとしたが、そのまま床にペタンと座り込んでしまった。
「えっ…どうして…」
和希は困惑して何とか立ち上がろうとしたが、足に全く力が入らなかった。
その時、部屋の扉が開き中嶋が中に入って来た。
中嶋は床に座り込んでいる和希を見て呆れた顔で一言言った。
「何をしている?」
ビクッと和希の身体が震えた。
昨夜の事を思い出し、本能的に中嶋が怖いと反応したからだった。
中嶋は和希の側に来るとふわっと和希を抱き上げ、そっとベットに座らせた。
「えっ…?」
予想もしない中嶋の行動に和希は戸惑ってしまった。
そんな和希に中嶋は言った。
「お前は何を考えている。今動けるはずがないだろう。俺はこれから仕事だからお前は今日1日ベットの中でゆっくりと過ごすがいい。」
中嶋はそう言うとベットの側のテーブルの上に食事を置くと、部屋を出て行った。




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