どんな微笑よりも…11

ふと目を覚ました和希は今が夕方である事に気が付いた。
「また寝ちゃったのか…」
和希はため息を付く。
和希が中嶋家に来てから1週間が経っていた。
毎晩中嶋に抱かれる和希はなかなか疲れが取れずに家事を少しするとすぐに疲れてしまい横になって眠ってしまう毎日を過ごしていた。
身体よりも心がついていかないのが現実だった。
毎晩繰り返される中嶋からの行為。
言葉で辱められ、屈辱的な行為を強制され、和希は身体も心もバラバラになる寸前だった。
けれども、何とか頑張れたのは篠宮への思いだった。
自分が頑張らなければ家族が苦労すると思うと和希は気力で頑張れていた。
が…
その衰弱ぶりは誰が見ても明らかだった。


「和希。朝と昼はちゃんと食べたのか?」
家に帰って来た中嶋は和希の顔を見たとたんそう言った。
和希はビクッと震えると、
「少しだけ…」
「本当か?」
中嶋は和希の顎を上げ、和希の目をジッと見つめた。
目を反らす和希。
そんな和希に中嶋はさらに言う。
「本当の事を言わなければ、今その身体に聞いてもいいんだぞ。」
「やっ…それだけは…」
和希は怯えながら、
「朝はミルクだけ飲みました。昼は…ごめんなさい。何も食べていません。」
「どうして何も食べようとしないんだ。好き嫌いがそれ程あるとは篠宮から聞いてないぞ。」
「…食べられないんです…食べようとすると…気持ちが悪くなって…」
俯いて答える和希に中嶋はまたため息をついた。
ここに来て以来、和希は殆ど物を食べようとしなかった。
以前無理矢理食べさせた事もあったが、すぐにもどしてしまったのでその時はそれ以上中嶋も無理には勧めなかった。
しかし、いつまでたっても殆ど物を口にしない和希にさすがの中嶋も不安を感じてきていた。


「これなら食べられるか?」
中嶋はそう言うと鞄の中から紙袋を取り出した。
中にはタッパーが入っていて、その中には美味しそうなお粥が入っていた。
「これ…どうしたんですか?」
「知り合いの中華料理の店に特別に頼んで作らせたんだ。身体にいいエキスが入っているそうだから少しでもいいから食べてみろ。駄目だったら残せばいい。」
和希は驚いた顔をして中嶋を見つめた。
わざわざこれを頼んで作ってもらったんだろうか?
どうして自分の為にそこまでするのか解らなかったが、和希は中嶋の言う通りに一口だけ口に含んでみた。
「…美味しい…」
和希は嬉しそうに微笑んだ。
ここに来て以来、おそらく初めて見せるその笑顔に中嶋はただジッと和希を見つめていた。
「そうか。なら食べられるだけでいい。食べろ。」
そう言うと鞄を持ち自分の部屋に向おうとしたが、和希がスプーンを置き中嶋のところに行こうとしているのに気が付いた。
「何をしている?」
「あの…着替えの手伝いを…」
「ああ。今日はいい。それよりもそれを食べていろ。」
「えっ?でも…」
「今日はいいと言っているんだ。」
「…はい…」
和希は大人しく引き下がった。


和希のここでの仕事は中嶋の身の回りの世話をする事だった。
掃除や洗濯、食事の支度は通いの家政婦がやってくれるので、和希は昼間はその手伝いをしていた。
ただし、今の和希は体調が思わしくないので殆ど手伝えてはいなかったが。
和希は中嶋が部屋に行くと、家政婦が作っておいてくれた料理を温めなおしていた。
ここの家政婦は料理がとても上手く、和希はその腕前にいつも感心していた。
食事を暖めなおした和希は机の上に中嶋の為に食事の用意を整えた。
整え終わった丁度その時、中嶋が服を着替え終え食堂に戻ってきた。
中嶋は机の上に湯気をたて用意されている夕食を見ると、冷たい目で和希を見つめた。
「これを用意したのはお前か?」
「あっ…はい…」
「誰がこんな事をしろと言った?」
「…だって…中嶋さんの食事の支度をするのは…俺の仕事だから…」
「俺はさっき、この粥を食べろと言ったはずだ。」
和希は震えだした。
これから言われる事とされる事に見当がついたからだ。
そんな和希の顔を見て中嶋はニヤッと笑った。
「ほお。物分りが良さそうだな。なら服を脱いで来い。」
「…今…ここで…ですか…?」
「そうだ。」
「…嫌だ…」
震える声で和希は答えた。
そんな和希を中嶋は冷たく言う。
「さっさとしろ!」
逆らう事などできない和希は悲しげな瞳をしながら中嶋の言う通りにするしかなかった。






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