どんな微笑よりも…14

丹羽と握手をしながら頬を赤らめる和希を見て、中嶋はイラついていた。
中嶋にはけして見せない笑顔で篠宮を見る和希。
恥ずかしそうに頬をほんのり染めて丹羽を見つめる和希。
和希がここに来て3ヶ月以上経つ。
その間中嶋には1度も見せた事がない表情を中嶋は今見てしまった。
しかもその表情は中嶋には向けられた事はなかった。
和希が中嶋に向ける表情は伺うような顔と怯えた顔…たまに笑顔を見せる事があっても今日のような心の底から嬉しいという笑顔ではなかった。
楽しそうに篠宮と丹羽と話をしていた和希だったが、中嶋の様子に気付くと表情をこわばらせた。
視線を下にずらした和希はテーブルの上の紅茶のカップの中身が減っているのに気が付いた。


「中嶋さん、皆さんの紅茶のおかわりをもってきてもよろしいですか?」
「ああ。」
和希の口調が急に変わった事に丹羽は気付くと、
「おい、ヒデ。お前和希にどんな教育をしてるんだ?」
「どんな教育とは?」
訝しい顔で中嶋は丹羽を見ながら言った。
丹羽は頭を掻きながら、
「だってよう。明らかにさっきまで俺らに話していた口調と違うぜ。お前の事だ。ご主人様気取りで和希をこき使っているんじゃないのか?」
「俺がそんな下らない事をするとでも思っているのか?」
「だったら何で…」
丹羽がそこまで言った時和希が話掛けてきた。
「違います、丹羽さん。中嶋さんは篠宮家の借金を肩代わりしてくれたんです。でも、利子はいらないと言って下さったので利子分俺がこの家で働かせてもらってるんです。俺はこの家の使用人なんです。だから…」
必死に言う和希の頭を丹羽は軽く叩くと、
「解った。その話はもうしねえかそんな顔をするな。」
「えっ?」
「泣きそうな顔をしているぞ、和希。」
「そんな事…」
和希は困った顔をしていた。


そんな和希に中嶋は冷たく言った。
「和希、さっさとお茶を持ってこい。」
「あっ…はい。ごめんなさい、中嶋さん。」
そう言って慌てて部屋を出ようとする和希に中嶋は、
「和希。お茶は4人分持って来い。」
「4人分ですか?」
「ああ。お前の分もだ。」
「中嶋さん…」
和希は驚いた瞳で中嶋を見ていた。
てっきりお茶をもってきたら部屋に戻れと言われると思ったからだ。
「それから、さっき丹羽が持ってきたケーキが冷蔵庫に入っている。それも持ってこい。」
「はい。」
和希は嬉しそうに返事をした。
まだ、この部屋に居ていいのだ。
紘司にいさんと丹羽さんとも、もっと話しをしたいと思っていたので和希はとても嬉しかった。


紅茶を入れ、丹羽が持ってきてくれたイチゴのショートケーキをお皿にのせて和希はリビングに戻ってきた。
篠宮は和希のそんな様子を見て、
「和希は随分と手際がよくなったんだな。」
と感心して言った。
和希はちょっと頬を染めると、
「はい。中嶋さんに色々教えてもらったんです。中嶋さんって凄く器用なんですよ。それに手際もよくて。俺、色々と教えてもらってるんです。」
「そうか…良かったな和希。」
「はい。」
嬉しそうに返事をする和希に微笑んだ後、篠宮は中嶋に頭を下げる。
「中嶋。借金だけでなく、和希の教育もしてくれてありがとう。うちは中嶋も知っているように、弟の柾司の事で両親は和希の教育には関われなかったんだ。だから、和希の面倒はずっと俺が見てきた。だから至らない所がただあるだろうが、これからもよろしく頼む。」
「俺は特に何もしていない。和希が俺のする事を見て学び取っているんだろう。さすが、篠宮が自慢していた弟だな。感心するところがたくさんあるぞ。」
中嶋はそう言うと和希に向かって微笑んだ。


和希はドキッとする。
中嶋の笑顔など、今まで見た事もない。
今日は久しぶりに友達が来て機嫌がいいのだろうか?
和希の心の中に恐怖意外の何かが生まれてきていたが、和希はそれには気付かなかった。
今日の中嶋さんは優しい…和希はそう思って中嶋の事を見つめていた。






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