どんな微笑よりも…15

和希は自分の部屋に戻るとベッドの上に座った。
久しぶりに会えた紘司兄さん。
3ヶ月位で変わるわけないと分かっていても昔のままの笑顔で接してくれて嬉しかった。
大好きな紘司兄さん。
でも…
たった3ヶ月の間に和希は大きくに変わってしまった。
中嶋によって変えられてしまった和希。
あんなに嫌悪していたのに、この身体は中嶋に触れられると浅ましい程感じてしまい、中嶋を求め快楽を求めてしまう。
もっとたくさん触れて感じさせて欲しいと望んでしまう。

涙が頬を伝わる。
でも、中嶋のおかげで家族が助かっているのは事実だった。
それに柾司の病院だって中嶋の親が院長をしている病院だ。
だから多少だが優遇がきいている。
借金が無くなったおかげで生活は以前よりもずっと楽になっていた。
病院への支払いも滞りなくできている。
もちろん借金を中嶋に肩代わりしてもらっているので、毎月中嶋にはお金を返金している。
しかし、その金額は微々たるものだった。
このままでは返済に何年も掛かってしまうだろう。
だが、利子がつかない分とても助かっていた。

和希は思った。
あのまま借金のかたに遊郭に行くより今の方がずっといいに決まっている。
毎晩違う相手の慰めものになるくらいなら今の方が幸せだと思う。
けれども…
快楽を知ってしまった自分の身体がたまらなく嫌だった。
やはり自分は中嶋の言う通り、淫乱なのだろうか?
中嶋は自分に素質があると言っていた。
それはもしかして出生の事と関係があるのだろうか?
篠宮家の教会の前に捨てられていた和希。
どうして捨てられたのだろう?
警察に捜査願いを出したが見つからない親。
もしかして望まれずに生まれてきた子だったのかもしれない。
だから捨てられたのだろうか?

暗い考えが支配しはじめた時、ふと浮かんだ丹羽の顔。
太陽のような丹羽の笑顔に和希が引き寄せれたのは仕方がなかった事かもしれない。
それほど丹羽の笑顔は強力なものだったのだから…
和希は無意識に呟いた。
「丹羽さんにまた会いたい…」
だが、和希は何も知らなかった。
何故篠宮や丹羽がここに来ていたかに。
そして中嶋の和希への分かりづらい愛情表現に。
中嶋が和希の為だけに彼らを呼んだ事を知らずに。
和希は丹羽の明るさに惹かれ始めていたのだった。







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