どんな微笑よりも…16

「和希。」
「丹羽さん!」
学校の校門を出た所で和希は丹羽に声をかけられ、嬉しそうに微笑むと一緒にいた友人に、
「ごめん。俺今日は…」
「分かってるよ。」
「丹羽さんのお迎えじゃ仕方がないよな。」
「本当にごめん。」
「いいって。謝るなよ。」
「それじゃまた明日な。」
「うん、ありがとう。」
和希は友人と別れると、丹羽の所まで走って行った。
「こんにちは、丹羽さん。今日はどうしたんですか?」
「ちょっとな…」
歯切れの悪い丹羽に和希は首を傾げる。

丹羽と篠宮が中嶋の家に来てから数ヶ月が経っていた。
久しぶりに篠宮と会った和希はたくさん話をして、よく笑っていた。
そして初めて会った丹羽とも打ち明けて嬉しそうにしていた。
篠宮も丹羽も中嶋と大切な話があったので、しばらく話した後和希は自分の部屋に戻っていた。
その時以来、月に2度程丹羽は和希の下校時間に合わせて会いに来て和希を遊びに連れて行ってくれていた。
きちんと中嶋の許可を取っているので、和希も安心して出掛けられていた。
場所はその時によって違うのだが、今まで田舎にいたせいか、あまり遊ぶ事をしなかったせいか、初めての所に連れて行ってもらっていた。
もっとも丹羽が好きな所なので、和希じゃなくても行った事がない人が多い場所ではあったが…
「とりあえず車に乗ってくれるか?」
「あっ…はい。」
車で来たのは初めてだったので、どうしたのだろうかと不思議に思いながら和希は車に乗った。

しばらく車を走らせた後、丹羽はおもむろに口を開いた。
「和希、今日はお前に会わせたい人がいるんだ。」
「会わせたい人?誰ですか?」
首を傾げて言う和希に丹羽はハンドルをギュッと強く握りながら、
「和希の本当の両親だ。」
「えっ…?」
「実はヒデに頼まれて、和希の両親を探してたんだ。警察に捜索願いを出しても見つからなかったんだろ?見つかるはずないんだ。捜索願いは親からは出ていないんだからな。」
丹羽の言っている事が理解できなかった。
かろうじて言えた言葉はどうして?だった。
呆然として答える和希に、
「和希は篠宮の教会に捨てられた訳じゃないんだ。俗にいう跡取り問題に巻き込まれただけなんだ。」
「跡取り問題?」
「ああ。和希は『鈴菱財閥』って知ってるか?」
「はい。」
鈴菱財閥を知らない人はいないと言っていいくらい有名だった。
政治家ですら鈴菱財閥を敵にまわすと政治生命を絶たれてしまうと言われている。
でも、どうして今その名が出てくるのだろう?

不思議に思いながら、
「鈴菱財閥が俺と何か関係があるんですか?」
「ああ。和希、お前は分家だが鈴菱の家の子なんだ。ただし正妻の子じゃなくて愛人の子だけどな。」
「…えっ…?」
いきなり告げられた真実に和希の頭の中は真っ白になった。
車はある一流ホテルの前に止まった。
顔色が変わった和希の手を丹羽はギュッと握った。
丹羽を見上げる和希。
そんな和希を丹羽は優しく見つめ、
「大丈夫だ。俺がついている。俺がお前の側にずっとついてるから、安心して両親に今までの思いをぶつけてこい。」
「…丹羽…さ…ん…」
不安げな瞳をした和希を丹羽はギュッと抱きしめながら、
「俺を信じろ、和希。」
それに答えるように和希は丹羽の腕をギュッと掴んだ。







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