どんな微笑よりも…17
丹羽と共にホテルに入った和希はある部屋の前で止まった。
「この部屋で和希の母親が待ってるんだ。」
「俺の…本当のお母さん?」
「ああ。」
丹羽はそう言うとドアをノックする。
すると中から若い男性の声がする。
「どちら様ですか?」
「丹羽です。」
眼鏡をかけた穏やかそうな男性がドアを開けると2人を中へと誘ってくれた。
ドアが閉まると、その男性は言った。
「ご苦労様でした、丹羽様。そちらが和希様ですか?」
「はい。」
「あっ…初めまして。篠宮和希です。」
和希は頭を下げて挨拶をする。
その男性は優しく微笑むと、
「私にとっては和希様は初めてではありません。」
「えっ?」
驚いた顔をする和希に、
「申し遅れました。私は鈴菱家の執事を仰せつかっております、石塚と申します。本日付けで和希様の執事となりましたので、よろしくお願い致します。」
「…執事って…?」
「お屋敷などで和希様のお世話をさせてもらいます。」
「…」
「困った事がございましたら何なりと私に仰って下さい。」
「あの…俺…」
「はい、何でしょうか?和希様」
和希は困った顔をして言った。
「俺は今日ここに本当の両親がいると聞いて来ただけなんです。ですから、急に鈴菱家とか執事とか言われても訳が分かりません。」
「そうですね。和希様はまだ何も聞いていらっしゃらないのですから不安に思って当然です。まずは和希様のお母様にお会いしてから話を進めましょう。」
そう言うと石塚は部屋の奥に進んだ。
その後をついていった和希は奥に座っていた品のいい女性に気付いた。
「奥様、和希様がお戻りになられました。」
ガタッと音を立て、椅子から立ち上がった女性は石塚の後ろにいる和希を見ると嬉しそうに微笑んで言った。
「和希なの?本当に?」
和希の側に近づくと、その女性は和希の前髪を上げた。
額の右側にうっすらと残る傷跡。
それを確認した女性は和希を抱きしめた。
驚く和希に、
「間違いないわ。私の和希。ずっと探していたのよ。今まで苦労させたわね。でも、それも今日で終わりよ。きょうから貴方は鈴菱家で暮らすのだから。」
女性の言葉に和希は動揺する。
「それは…どういう意味ですか?」
「言葉のままよ。貴方は鈴菱家の後継者なのだから。今すぐにでも鈴菱家に戻らなくてはならないのよ。」
和希は女性をそっと押して側から離れる。
「どういう事ですか?俺は何も聞いていない。」
「今聞いたから構わないでしょう。」
「そういう問題ではないと思います。」
固い表情をする和希に今まで黙ってみていた石塚が声をかけた。
「奥様。もし宜しければ、私が説明しても宜しいでしょうか?」
「そうね。お願いするわ。」
石塚は和希に側の椅子に座るように言った。
机を挟んで女性と座る和希。
嬉しそうに和希を見つめる女性に対して和希は複雑な思いで見ていた。
いきなり告げられた真実。
この女性が自分の産みの親なのだろか?
確かに自分と似ている所がある。
でも…分からない…
どうしてそんなに俺に会えたのが嬉しいのか。
それほど会いたかったのならどうして今まで俺を捜そうとしなかったのか。
それよりもどうして俺が我が子だと分かったんだろうか。
石塚がコーヒーを入れている間に、和希はその疑問について聞いてみた。
「あの…どうして俺が貴方の子だと思ったんですか?」
女性は驚くわけではなく当たり前のように言った。
「和希が誘拐された時に着ていた服と縫いぐるみで確認をしたのよ。それと最終的にはその額の傷跡ね。」
「傷跡?」
和希は額にそっと触れる。
今ではだいぶ薄くはなっているが、和希の右側の額には火傷の跡と思われる傷跡があった。
「この傷跡は…俺が捨てられていた時には既についていたと聞いています。その訳を知っていますか?」
「ええ。その傷は貴方の誕生を好まない人に付けられた跡だから。」
「俺の誕生を?それはどういう事ですか?」
和希がそこまで聞いた時、石塚がコーヒーを持ってきた。
「ここから先は私がお話しても構いませんか?奥様。」
「ええ。お願いするわ。その方がこの子も安心するでしょうから。」
そう言うと女性はコーヒーに口をつけ始めた。
「和希様、お話してもよろしいですか?」
「あっ…はい。お願いします。」
石塚は和希の過去について話し始めた。
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