どんな微笑よりも…21

「こちらです。」
そう言われて通された部屋の中にいたのは、綺麗な女性と和希と同じ歳位の女の子がいた。
2人は和希を見るとにこやかに笑い、
「石塚、この子が和希さんなの?」
「はい。奥様。」
「そう…」
和希を優しく見つめると、
「初めてまして、和希さん。私は貴方のお父様の妻です。今日からはお母様って呼んで下さいね。それからこの子は貴方の妹の鈴音です。和希さんの妹になるけれども、半年位遅く生まれただけだから同級生ね。」 「よろしくね、和希お兄様。」
「あっ…こちらこそよろしくお願いします。」
和希は頭を下げながら言った。

初めて会う実の父の妻とその娘。
妾の子など、嫌がられても当然だと思っていた。
どんな酷い言葉だって受け止めるつもりでここに来た和希だった。
けれども…
とても優しい人たちで和希は安心した。
これからここで暮らして行くのだから色々と大変な事もあるだろう。
けれども、この人たちと一緒なら上手くやっていけると和希は思い、安心してしまった。
本当の事を言うと実の母よりも安心出来た和希だった。
実の母の事は嫌いではない。
しかし、先程別れた実の母は和希に対して何の未練もなさそうだった。
自分は愛人だから和希とは暮らせないと言っていた。
これからは鈴菱家で暮らすのだから、会う事はあまりないだろうけれども鈴菱家の後継者としてしっかりやるようにと。
また和希のミスは愛人である自分にかかってるから気を抜かずにやるようにと。
けして人から愛人の子だからと言われないようにそつのない行動をするように。
そう言われて別れたのだった。
その時、和希は自分を後継者としてしかみてくれてないのではないかと思ったくらいだった。
本当の事は分からないが…

「石塚、和希さんはお疲れだと思うから部屋に案内してあげて。」
「はい、奥様。それでは和希様、お部屋にご案内をしますね。」
「よろしくお願いします。」
和希は石塚に頭を下げる。
石塚はお気になさらないで下さいと言って和希と一緒に部屋から出て行った。

石塚と共に和希が部屋を出るとため息が部屋に響いた。
「お母様ったら、随分と良い人を演じるのね。」
「仕方ないじゃない。あの人が決めた事なんだから。」
「お父様も何を考えているのかしら?いくら自分の血が繋がっているからって、あんなのを引き取るなんて気がしれないわ。」
膨れた顔で言う鈴音に、
「あら?鈴音さんだって随分としおらしかったじゃないの?」
「建前でしょ。“お兄様”って呼ぶの、嫌でたまらなかったわ。」
「まあ…たいした演技力ね。」
「そんな事よりも、いいのお母様。あの子を鈴菱家後継者にして。」
「そうねぇ…どうしようかしら?」
「お母様!鈴菱家後継者になるためにって私久我沼と婚約までしたのよ。後継者になれないなら、今すぐにあんな人との婚約なんて破棄して!」 怒る鈴音に、笑いながら言った。
「婚約破棄の必要はないわ。予定通り、貴方には鈴菱家を継いでもらうわよ。」
「えっ?どうやって?あの子はどうするの?まさか殺すわけじゃないでしょうね。」
「そんな馬鹿な事はしないわよ。後継者に無理な程度の怪我はしてもらうけれどもね。」
「ふふっ…怖い人ね、お母様って。」
「あら?何の事?不慮の事故なんてその辺にいっぱいあるでしょ。今さらのこのこと帰って来て後継者になろうなんてズーズーしいにも程があるわ。」 「そうよね。悪いのは今頃帰って来たあの子だもの。仕方ないわよね。」
「ええ。運が悪かったと思って諦めてもらうしかないわね。」
2人は顔を見合わせて楽しそうに笑うのだった。






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