どんな微笑よりも…24

「どういう事なんだ?ヒデ。」
「どうもこうも今言った通りだ。和希は鈴菱家の後継者にはならないそうだ。」
「なっ…なら、どうして和希をあんな家に戻したんだ?俺は和希の過去を調べながらあの家についても調べたんだ。あの家の連中はまともじゃねえよ。」
「まともじゃないとは?」
「和希の実の親は和希が誘拐された後ろくに探しもしていない。おそらく誘拐したのは和希の実の父親の正妻が誰かに頼んだ線が強いがこれはまだ確たる証拠がない。現在の鈴菱家の後継者は和希の実の父親の従兄弟だ。そいつは和希の実の父親とかなり歳は離れている。そして今その従兄弟、久我沼は正妻の娘と婚約中だ。その上、あの家のやつらは自分の利益だけを考えて行動している。そんな所に和希がいってみろ。後継者争いに巻き込まれるだけだ。そんな苦労はあいつにはさせたくなかった。」
「させたくない…か。和希に惚れたのか、哲ちゃん。」

楽しそうに言う中嶋に丹羽は怒りを表す。
「ああ。好きだ。和希を愛している。だけど、あいつが求めているのは俺じゃねえ。」
「ほう…俺はてっきりお前だと思っていたがな。和希は丹羽にあんなにも懐いていたじゃないか。」
「確かに懐いてはいたさ。けれどもそれは俺が和希に優しくしたからだ。和希は寂しかったんだ。だから甘えさせてくれる奴なら誰でもよかったんだ。あいつは…優しさに飢えていたからな。」
「それで?」
「和希は意識はしていなかったんだが、ヒデ…お前の事を想っていたんだ。」
「…っ…」
丹羽は寂しそうに微笑む。
「知らなかったのかよ。まあ、和希も無自覚だったからな。和希と会っている時、あいつは何かにつけお前の事を話していたんだ。」
「それは一緒に暮らしていたからだろう。」
「俺も最初はそう思っていたんだ。だが、違うんだ。和希は…ヒデの話をする時、満ち足りたような顔で幸せそうな顔をするんだ。それが恋をしている顔だっていくら俺が鈍くても分かるぜ。だから俺は和希の1番の理解者になってやろうと決めたんだ。まあ、言い換えれば兄みたいな存在かな。」
「…お前はそれでいいのか?…」
「ああ。だって和希は俺の事を慕ってくれている。それだけで十分だと思ったよ。それに親友のお前の事を好きになる奴なんてある意味貴重な存在だぜ。」
「丹羽…」

「で…どうするんだ?和希は今どこにいるか知っているのか?」
「ああ。」
「ふ〜ん。だからか…おかしいとは思ったんだ。今さらリハビリの勉強を始めるなんてさ。何かあるかと思ったんだが、やっぱり和希絡みか。」
納得した顔をする丹羽に中嶋は苦笑いをする。
「ヒデがそれを勉強しているって事は和希に何かあったんだな。」
「交通事故だ。あくまでも不幸な事故として片付けたらしいがな。」
「なるほどな。取りあえずは生きてはいるんだな。」
「ああ。だが、あの身体では後継者にはもうなれないだろうな。」
「それ程酷いのか?」
「俺も聞きかじりだから詳しくは分からん。だが、できるだけ治してやりたいんだ。その為にはリハビリは必要不可欠だ。」

「もう、離さないって事か?」
「そうだな。もう2度とこんな辛い目には遭わせたくないからな。あいつの側にずっとついていてやりたい。」
丹羽は嬉しそうに笑って言った。
「やっぱり和希は凄い奴だな。ヒデにそこまで言わせるんだからな。今度こそ和希を手放すなよ。」
「もちろんだ。」
嬉しそうに微笑む中嶋に丹羽は心底安心した顔をしていた。






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