星に願いを 11

屋敷に入った丹羽に和希は声を掛けた。
「あの…王様?どこに行くんですか?天帝ならこの時間は仕事で執務室にいると思います。」
「ああ。知っている。」
「なら、どうして玄関に向かわないのですか?このままだと私室へ行ってしまいますよ?」
和希は不思議そうに丹羽に訪ねた。
この時間なら中嶋は仕事でこの屋敷にはいない。
なのに、どうして私室があるフロアーに行こうとしているのだろう?
しばらく考えた後、和希は気が付いた。
中嶋の仕事場に行くのに、和希の服装はあまりにもラフ過ぎている。
丹羽は仕事中らしく、きちんとした服装だった。

「王様、俺着替えた方がいいですよね。気が付かなくてすみません。」
申し訳なさそうに言う和希に丹羽は歩みを止めると和希の方を振り向いた。
「和希。お前何か勘違いしてねえか。」
「はい?だってこれから天帝に会うのでしょ?俺の服を着替える為に部屋に行くんでしょ?」
「…まったく…」
丹羽はガシガシと頭を掻いた。
困った顔をした丹羽を和希は不思議そうに見ながら、
「あれ?違うんですか?」
「ああ、違う。」
「なら、どうして?あっ、分かった。何か取りに来たんですね。今は仕事中ですから、忘れ物か何かを取りにここに戻ってきたのですか?」
「…」
丹羽はますます困った顔をした。
「まあ、いい。とにかく俺の部屋に来い。」
「王様の部屋ですか?」
「そうだ。」

そう言って歩き出した丹羽の後を和希は慌てて追い掛けた。
中嶋家には丹羽の部屋もあった。
かつて、和希の育児をしていた時に度々丹羽が泊まったのと、仕事の関係で自宅に仕事を持ち帰り夜中までやることが多い為に昔から丹羽の部屋が用意されていた。
その部屋に丹羽が入ると、後から和希も入ってきた。
部屋に入ると丹羽は和希の方を向くと、
「和希。俺と結婚する事に後悔はないのか?」
「はい。俺…ずっと王様だけを見てきましたから。王様と一緒になれると思うと凄く嬉しいです。でも、王様は?本当に後悔しないんですか?」
「後悔なんかするもんか。和希を手放す方がずっと後悔する。」
「…嬉しいです…」
頬を染め、ふわりと和希は微笑んだ。
その和希の唇に丹羽は自分のそれを重ねる。
驚く和希だったが、すぐに目を閉じ丹羽を受け入れた。
ずっと想い続けていた愛しい人からのキス。
和希は幸せに浸っていた。
その和希の耳元で丹羽は囁いた。
「今から和希を俺のものにする。いいな。」
「…」
和希は耳まで真っ赤に染めながらコクンと頷いた。

「大丈夫か?和希。」
心配そうに和希を見つめる丹羽に和希は疲れきった顔で答えた。
「…はい…平気です…」
「どう見ても平気じゃないだろう?悪いな。つい暴走しちまってよう。」
「いえ…それは…」
和希はニッコリと微笑みながら、
「俺…王様にあんなに情熱的に求められるなんて思いませんでした。」
「和希があんな可愛い反応をするだなんて思わなかったからさ。無理させちまって本当に済まない。」
頭を下げる丹羽に和希は慌てて、
「本当に気にしないで下さい。俺こそ…初めてだったので…その…」
「良かったぜ。本当はもっとシタいくらいなんだけどな。」
「えっ…」

困惑した顔をする和希。
そんな和希の頭を丹羽はポンッと叩くと、
「無理はさせねえから、安心していいぜ。和希だってまだ本調子じゃないんだからな。」
「すみません。」
俯く和希に丹羽は、
「なら、もう1度キスだけさせてくれるか?そうしたら少し寝た方かいい。まだ、調子がいいわけじゃないんだからな。」 「はい。」
和希に啄むようなキスを1つ落とした後、丹羽は和希に布団を掛けた。
しばらくジッと丹羽を見つめていた和希だったが、体調があまりよくないせいか、疲れていたせいかすぐに眠ってしまった。
和希の寝顔を見ながら丹羽は呟いた。
「さてと…ヒデを説得するのが一苦労だな。どうしたら納得してくれるか悩むぜ。」
丹羽の深いため息が和希の寝息と共に部屋にこだましていた。




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