星に願いを 13

「天帝。俺は王様が好きです。王様との結婚を認めて下さい。」
勢いよく叫んだ和希の言葉に唖然とする中嶋と丹羽。
だが、最初に口を開いたのは中嶋だった。
「それは無理だ。」
「どうしてですか?俺と王様が同性だからですか?跡取りならきちんと養子を取って俺が教育します。」
「そういう問題ではない。」
「なら、どうしてですか?」
「お前はまだ子供だ。初めて男に抱かれてその気持ちに酔っているだけだ。」
「そんな事はありません。俺は真剣です。」
「そう言う事を言う時点でダメなんだ。とにかく丹羽との事は悪い夢だと思って早く忘れろ。」
「…どうして…」
和希の目には涙が浮かんでいた。
「和希?」
「どうして天帝は俺の気持ちが分からないんですか?俺はずっと王様が好きだった。やっとその想いが叶って幸せになれたのに…天帝の価値観を押しつけられるとは思いませんでした。天帝はいつもそうだ。自分が正しいと思う事を平気で俺に押しつける。俺の意志とか思いなんて考えてもくれない。まるで独裁者だ。」
「和希!言い過ぎだ!」
黙って見守っていた丹羽が和希を止めた。
「だって、王様…」
「だってじゃない。ヒデはああ見えても誰よりも和希の事を考えて心配してくれている。確かに和希の言う通りにヒデがいいと思った事が和希にとっていい事じゃない事だってある。だが、どんな考えでもヒデは和希の事を思って、和希にとって何がいいのか考えて言ったり行動しているんだ。」
「そんなの…俺には分かりません。」
「分かりませんじゃない。分かろうとしないんだろう。」

丹羽に言われ、和希は悲しくなった。
王様には誰よりも自分の事を理解してもらいたかった。
なのに、なぜ王様は天帝の事を庇うような事を言うのだろう。
やはり、王様は天帝の方が大切なのだろうか?
長年天帝の側にいて親友と天帝の片腕として存在している王様。
俺の事を好きだと言ったのも、天帝の子供として愛おしかったからかもしれない。
抱いてみて、その違いに気付いたのかもしれない。
王様は俺を抱いた事を後悔している?
和希の胸に不安が過ぎった。
なら…
俺に出来る事は1つだけ…

「王様は俺との事を後悔しているんですね。だからそんな事を言うんですよね。」
「なっ…何を急に言うんだ。そんな事あるわけないだろう。」
驚く丹羽に向かって和希は寂しげに微笑んだ。
「もう…いいです…王様にとって大切な人は天帝であって俺じゃない。それが分かっただけで満足です。」
「和希?お前、何言ってるんだ?」
「離して下さい!」
和希の腕を掴んだ丹羽の手をはね除けると、
「天帝。これでご満足ですか?俺の独りよがりで申し訳ありませんでした。王様との事は悪い夢だと思って忘れます。」
それだけ言うと和希は丹羽の部屋を飛び出した。
後に残った中嶋はため息を付いて丹羽に言った。
「丹羽、和希はまだ子供だ。」
「そんな事はない。」
「どう見ても子供だろう?今の会話を思い出せ。感情のままに喋っている。落ちついて考える事がまだできないんだ。だから、この事は忘れろ。俺も忘れる。」
「ヒデ…いくらお前の頼みでもそれは無理だ。俺は和希を愛してる。」
「和希は初めて肌を合わせた事で錯覚を起こしているんだ。」
「あいつは、それ程馬鹿な奴じゃない。自分の意志をちゃんと持っているんだ。確かにお前の言う通りに感情のままに物事を言うところはある。だがそれは、長年我が侭を言えなかった和希が自分の思いを伝えようと必死になっているからだ。」
「我が侭を言えなかった?」
「気付いていないのか、ヒデ。和希は仕事で忙しかったお前を困らせた事はなかっただろう?」
「そう言えば、そうだな。」
中嶋は考えてから言った。
忙しい中嶋に和希はいつも笑って言っていた。
『お仕事頑張ってね、お父様。僕、ここでいい子で待ってるからね。』
思い出すのはいつも笑っている和希の顔だけだった。
いつからだろうか?
和希が中嶋の事を『お父様』から『天帝』と呼ぶようになったのは…
前は暇さえあれば中嶋の私室に来ていたのに、気付けば来なくなっていた。
大人しくて聞き分けがいい子…それが和希だった。
考え込んでいる中嶋に丹羽は、
「俺だって、夕べ初めて和希の気持ちを知ったんだぜ。」
「和希の気持ちを?」
「ああ。俺に抱かれた後で言ったんだ。『自分の気持ちを人に上手く伝える事ができない』と。」
「そんな事を言ったのか、和希が。」
「俺も以外だった。と言うより、そんな風に和希が思っていたなんてこれっぽっちも考えた事がなかったんだ。」
丹羽は夕べの事を思い出しながら切なそうな顔をした。




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