星に願いを 3

「だから、俺は今はそういう気になれないんです!」
天帝の執務室に和希のイラだった声が響く。
「でも、会うだけなら構わないだろう?何を意固地になってるんだ?」
「俺は別に意固地になんてなってません。ただ、天帝があまりにしつこいので困っているだけです。」
プイッと顔を反らして言う和希に中嶋はため息を付く。
「和希。今は天帝として話をしているわけじゃない。父として話をしているんだ。」
「そうなんですか。俺には天帝に命令されているとしか思えません。」
「和希、今の言い方はいくらなんでも良くないぞ。ヒデに謝れ。」
「王様…」

和希は丹羽を見た後、俯いて言った。、
「どうしてですか?俺は…」
「これくらいの事、言われないと分からないのか?ヒデは和希に早く幸せになってもらいたいんだ。和希はいつも職場にいるか、図書室にいるかどちらかだろう。これじゃ、出会いなんてうまれてこない。だからその機会を与えているだけなんだ。会ってみて合わないと思ったら、やめればいいだろう。それを頭ごなしに怒って、写真すら見ないのはどうかと俺は思うぞ。さっき見たんだが可愛らしい子じゃないか。会ってみるだけでもいいと俺は思うぞ。」
「な…何で…」
大好きな丹羽から誰かと付き合えと言われるなんて思ってもいなかった。
「なんでそんな言い方を王様からされなくちゃいけないんですか?そんなに可愛い子なら俺の代わりに王様がお見合いをすればいいじゃないですか。王様はまだその歳で独身なんですから。」
「はぁ?何で俺がそこに出てくるんだ?俺の事はどうでもいいんだ。だが、和希は天帝の後継者なんだぞ。それなりの相手を決めなくてはいけないだろう。」
「そんなのは関係ない。俺はまだ、仕事がしたいんだ。いくら天帝が今の俺と同じ歳には結婚して子供がいたからってそれと同じ事を俺に求めないで欲しい。俺は俺なんだから。」
「それはヒデだって十分に分かっているんだ。ただ、ヒデだって心配しているんだ。和希は仕事以外には興味を示さないだろう。」
「だから?仕事にしか興味がないからお見合いをして結婚ですか?俺は…」
和希は言葉をいったん切った後、
「天帝は早く啓太と結婚したいから俺にお見合いを勧めるんじゃないんですか!俺をそんな事に巻き込まないで下さ…」

“バシッ”
中嶋が和希を頬を叩いた。
驚いたのは和希よりも丹羽だった。
「お…おい…ヒデ?何、叩いてるんだよ。」
中嶋は丹羽を無視して和希に言った。
「情けない。俺はそんな風にお前を育てた覚えはない。」
「…っ…」
「俺は1度だってそんな事を考えた事はない。俺と啓太の事は和希の結婚には関係がない。いつからそんな風にひねた考え方をするようになったんだ。」
「…俺は…」
和希の目からは今にも涙が零れ落ちそうだった。
けれども、和希はキッと中嶋を睨むと、
「俺はまだお見合いをする気も誰かと一緒になる気もありません。まだ仕事が残っているので、これで失礼します。」

頭を下げ、和希は天帝の執務室から出て行った。
パタンと扉が閉まる音がすると、シーンと部屋が静まりかえる。
中嶋は和希を叩いた手をジッと見つめながら言った。
「上手くはいかないものだな…俺はただ…和希に家庭の温かさを知ってもらいたかっただけなのに…」
「ヒデ?」
「あいつは生まれてすぐに母親を亡くした。俺と丹羽で育てた子だ。だが、忙しい俺達は殆ど和希の側にはいられなかった。なのに和希は我が侭1つ言わずに俺達が仕事中は1人で大人しくしていた。本当に手が掛からない子だった。だから、知ってもらいたかったんだ。家庭の暖かさを、安らぎを。」
「ヒデ…」
丹羽は中嶋の肩をポンッと叩いた。
「大丈夫さ。俺達が育てた子だぜ。ただ今は、きっと仕事が面白いだけだ。だから他の事に余裕が持てないんだろう。時期が悪かっただけだ。何も一生独身でいるわけじゃないだろう。もう少し、和希の自由にさせてやろうぜ。そのうち、反対したってどうしてもこの人と結婚するって言いにくるだろうからな。その時の覚悟をしといた方がいいかもな。案外とんでもない奴を連れてくるかもしれないぜ。」
「フッ…そうだな。俺も焦っていたのかもしれない。父親っていうのはどうもダメだな。」
苦笑いする中嶋に丹羽は笑いながら、
「それじゃ、ちょっと和希の様子を見てくるよ。」
「丹羽。そう言って仕事をサボる気だな。」
ギクッと丹羽はするが、中嶋は笑って言った。
「今日は特別だ。もう戻って来なくてもいいぞ。」
「分かった。和希の事は安心して任せろよ。」
丹羽は嬉しそうに笑いながら天帝の執務室から出て行った。




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