星に願いを 4

天帝の執務室のドアを閉めた途端に和希の目から涙が溢れてきた。
その涙を手で拭いながら顔を俯かせて和希は歩き出した。
拭っても拭っても溢れてくる涙。
和希だって分かっていた。
いくら好きでも王様と一緒にはなれない事を…
天界がいくら同性の結婚を認めていても、跡取りが必要な和希が同性と一緒になれるわけがない。

けれども…
好きな人から他の人と付き合えとは言われたくなかった。
小さい時から自分はいずれ父の後を次いで天帝になるのだからそれに相応しい相手と一緒になると決めていた。
思ってはいたが、頭でいくらそう思っていても心は違っていた。
好きになってしまってはいけない人を好きになってしまった。
報われないと分かっていても、王様の側に少しでも長くいてその姿を見つめていたかった。
でも…
それももう終わりにした方がいいかもしれない。
だって今日ではっきりと王様の気持ちが分かったのだから。
諦めて今の自分に相応しい女性と一緒になった方がいいかもしれない。
それでも、もう少しだけ時間が欲しかった。
もう少しだけ王様だけを想って見つめていたかった。

その時、
「おや、坊っちゃんじゃないか?どうしたんだ?こんな所で。」
その声に和希は思わず顔を上げてしまった。
声の主は丹羽竜也。
近衛隊の隊長をしている竜也は小さい頃から和希の面倒をみていた。
中嶋や丹羽が忙しくて殆ど構ってもらえなかった時、和希はよく竜也に遊んでもらっていた。
中嶋は和希が物わかりがよく、大人しい子だと思っているが、実は違っていた。
それはけして中嶋や丹羽には見せなかった和希の本当の姿。
仕事が忙しい中嶋や丹羽にいつも笑顔で頑張ってと言っていた和希。
でも、2人の姿が見えなくなるといつも1人で泣いていた。
心配かけまいと我慢していた小さい頃の和希。
本当はもっと一緒にいて欲しかった。
けれどもそれが言えなかった。
和希が1人声を殺して泣いていると必ず竜也が来てくれた。
『俺が遊んでやるからもう泣くな』と…
そんな竜也に和希は泣くのを止めて頷いていた。
そして、中嶋や丹羽に言えなかった事を和希は竜也には言っていた。

「竜也さん…」
「どうした?また父親と何かあったのか?」
和希の頭を撫でながら、竜也は言う。
竜也にとって和希は孫みたいな存在だ。
「何でも…ありません…」
「何でもないわけないだろう?どうしたんだ?」
和希は堪えきれずに竜也の胸に飛び込むと、声を殺して泣き出した。
そんな和希の背中を竜也は撫でながら、
「まったく、幾つになっても坊っちゃんは変わらないな。思いっきり泣くがいい。そうすれば少しは気分が収まるだろうからな。」
「ご…ごめんな…さい…」
竜也は苦笑いをしながら、
「違うだろう?こういう時は『ありがとうございます』って言うんだ。」
「はい…竜也さん…ありがとうございます…」
「ああ。」
そのまま涙を流す和希を竜也は優しく抱き締めていた。





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