星に願いを 5

思いっきり泣いた後、和希は恥ずかしそうに竜也から身体を離した。
真っ赤な顔で俯きながら、
「ありがとうございました、竜也さん。」
「なに、大した事じゃねえよ。それよりも落ち着いたか?」
「はい…ご迷惑をおかけしました…」
竜也は和希を頭をクシャとしながら、
「気にするな。和希に泣かれるのは今回が初めてじゃないからな。何度もこうして胸を貸しただろう。昔は泣き疲れてよくそのまま寝ていたよな。」
「りゅ…竜也さん…」
和希はあわてて声を掛けた。
「うん?何だ?」
「もう、何じゃありません。そんな昔の話なんてしないで下さい。恥ずかしいじゃないですか。」
「いいじゃねえか。今となっては懐かしい思い出だぜ。息子の哲也は坊っちゃんみたいにかわいらしくなかったからな。」
「かわいらしいって…それって女々しいって事ですか?」
「そんな事は言ってないぞ。」
「だって、王様はそんな事はなかったんでしょ?どうせ俺はすぐに泣く泣き虫でしたからね。」

拗ねて顔を反らしながら言う和希はとても可愛かった。
竜也は笑いながら、
「哲也がメソメソ泣く姿なんて想像もしたくねえな。坊っちゃんもそう思わないか?」
和希はちょっとだけ想像してみた。
丹羽がメソメソ泣く姿を…
想像できないと思った。
悔し涙なら想像がつく。
けれども、それ以外の涙姿は思い浮かばない。
難しい顔をした和希の額を竜也は指で叩いた。
「想像できたか?」
「いいえ、できませんでした。」
「だろうな。俺ですら想像できないからな。」
笑いながら言う竜也を和希はジッと見ながら、
「何も聞かないんですね…」
ボソッとそう言う和希に、
「言いたく無い事を無理に言わせる趣味はないからな。言いたくなったらいつでも聞いてやるからな。」
竜也の暖かい心使いに和希の目からまた涙が出そうになった。

「俺…」 和希はゆっくりと話始めた。
「俺は…好きな人がいるんです。でも相手は俺の事何とも思ってないのが今日はっきりと分かったんです…でも、簡単には諦め切れなくて…」
竜也は黙って聞いていた。
「分かってるんです。俺は天帝の跡取りだからそれに相応しい相手と一緒にならないといけないって事を。でも…人の心って思い通りにはなりませんね。」
「まあ、そんなもんだろう。だから面白いとも言えるんじゃないか?」
「そうですね。頭では分かってるんですけど。」 「坊っちゃんはまだ若いんだから、無理にその恋に拘る必要はないと思うけどな。だが、どうしても諦められないのであれば、突き通す強さも必要だな。」
「突き通す強さですか?」
「ああ。確かに坊っちゃんは天帝の後継者だ。だからできたら跡取りを残した方がいいに決まっている。だが、必ずしも子供に恵まれるわけじゃない。どうしても恵まれなければ養子を取るって考えもあるだろう。」
「養子ですか?」
「例えばの話だ。相手が同姓の場合はその可能性があるだろう。俺は難しい事はわからないが結婚は義務でするものじゃないと思っている。少なくとも坊っちゃんの父親はそうだったぜ。」
「天帝が?」

驚く和希に竜也は言った。
「ああ、天帝が見初めた相手は身体が弱い女性だったんだ。だから子供を生むのは無理だと言われていた。天帝はそれを承知で一緒になったんだ。」
「…初めて知りました…」
「そうか。誰も坊っちゃんに話さなかったんだな。確かにあんまりいい話じゃないからな。」
「そうなんですか?」
「坊っちゃんを産む為に命を落としたんだからな。誰もその事には触れなかっただろうな。」
和希は辛そうな顔をした。
「でもな。周りが何と言っても坊っちゃんの母親は産むと決めたんだ。それに対して天帝もそれを承諾したんだ。俺はこの2人は強いなと思ったぜ。」
「それで…幸せだったのでしょうか?」
「さあな。俺は本人達じゃないから分からないが、今の天帝を見ていると幸せだったと思うな。あの頃と同じ笑顔をするようになったからな。」

和希は中嶋の机の奥にしまってある写真を思い浮かべていた。
アルバムに収められている写真はどれもなくなった和希の母と中嶋が映っているものだ。
幸せそうに微笑んでいる母と父。
自分を産むには命を落とすと分かっていて産んでくれた母。
それをどんな辛い思いで承諾したのだろう。
俺にはできないと和希は思った。
俺なら生まれてくる子よりも今ここにいる相手を選ぶに決まっている。
中嶋の強さを見た瞬間だった。
「天帝は強いお方だ。だからもし坊ちゃんがどうしてもその恋を実らせたいと思っているなら、天帝に真剣に頼んでみるといい。天帝は話が分からない頑固者じゃないと思う。ただ相手がな…坊っちゃんもあんまりいい趣味とは言えないな。」
「えっ?」
和希は驚いた顔をした。
「あの…竜也さん…」
「おっと、余計な事を言ったな。まあ、俺は本気ならまず相手の気持ちを確かめる事から始めた方かいいと思うな。言われなければ、まず気づくような相手じゃないだろうからな。」
「そうでしょうか。」
「ああ。まあ、頑張って告白して来い。話はそれからだな。」
意味深に笑う竜也を不思議そうに見つめる和希。
和希の想い人が丹羽だと言う事を竜也はずっと前から気づいていたのだった。
そんなことを知らない和希は竜也に言われ、告白しようかどうか真剣に悩んでいた。




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