星に願いを 8

しばらくは平穏な日が過ぎていった。
久我沼にされた事に関して丹羽は訴えるべきだと和希に言ったが、自分の叔父を訴ったえる気はないと和希は言い張った。
「和希は優し過ぎるんだ。だから、久我沼なんかに付け入られるんだ」
そう言って怒る丹羽に和希は困った顔をしていた。
中嶋に言われ体調がよくなるまで仕事を休んでいた和希が久しぶりに自室を出て庭を散歩していた。
久我沼がなぜ自分に薬を嗅がせたのか分からなかったが、仮にも叔父と甥の関係だ。
和希を連れさろうとしたところを丹羽に目撃されたのだ。
もう、自分には何もしてこないだろう。
そう思いながら薔薇の花を眺めていた和希だった。

「和希君。」
和希はその声にビクッとした。
ここは天帝の自宅である。
警備が厳しく簡単には入れないはずだった。
まして、今回の事件の後だけにまさかここに堂々と入って来るとは思ってなかった。
「おじさん…」
「体調はどうかな?この前会った時は急に倒れたんで心配してたんだよ。」
白々しく言う久我沼を和希は呆然とみていた。
誰のせいで意識を失ったと思っているんだ…
あの時薬を嗅がせられなければあんな事にはならなかったのに…
和希は心の中で思ったが口には出さなかった。

「その節はご迷惑をお掛けしました。ところで今日はどうしてここに?最近警備が厳しくなったからここに入るのは大変だったんじゃないんですか?」
「いや、簡単に入れたよ。今日はね、和希君に話しがあってきたんだ。」
「俺に?」
和希の身体がビクッと震えた。
本能的に怖いと思ったのだ。
「あの…話なら天帝と伺います。」
「どうしてだい?別に2人きりでも構わないだろう?」
そう言って久我沼は手を伸ばして和希に触れようとしたが、その手を和希ははらった。
「気安く触らないで下さい。」
「何をそんなに怯えているんだい?」 「俺は怯えてなんて…それより俺に話なら天帝を通してからにして下さい。それ以外での話は伺いません。」
久我沼は渋い顔をした。
「どうやら優しく言って分かる子じゃなかったようだね。それなら仕方ない。」

そう言ったその時、
「おい!何してるんだ!」
「王様?」
和希は声の方を振り向くと、そこには丹羽が立っていた。
丹羽は和希を後ろに隠すように立つと、
「久我沼さん、嫌がる和希に何をしようとしているんですか?」
「何を?君には関係がないだろう?」
「関係があるから聞いているんです。久我沼さん、この間の事といい、貴方は和希に何をするつもりなんですか。」
「何もしやしないさ。叔父として話をしているだけだ。君こそ、他人の癖に口を挟まないでほしいな。」
「他人?和希は俺にとって身内と同じです。」
「身内?丹羽君、君は何か勘違いしてないかい?」
鼻で笑いながら久我沼は言う。
「いくら英明君の親友だからといって、所詮君は天帝の一族ではないんだよ。少しは身分の違いってものに気付いたらどうだい?まったく、英明君も優しいからこんな奴がつけあがるんだ。少しは口を慎め。」
「…」
久我沼に言われ、思わず言葉が続かなくなった丹羽。
確かに丹羽は中嶋や和希とは身分が違う。
けれども、中嶋も和希も身分というものを嫌うので特別に意識した事はなかった。

途惑いを見せた丹羽に気付いた久我沼はニヤリと笑うと、
「さあ、さっさとそこを退いてもらおうか。」
「止めて下さい!」
「和希?」
「和希君?」
今まで丹羽に庇われるように後ろにいた和希が声を張り上げ、久我沼の前に出てきた。
「おじさん、これ以上王様に酷い事を言わないで下さい。」
「酷い事?私は本当の事しか言ってない。」
「確かにおじさんの言う事は一理あります。けれども、王様は天帝にとって大切な親友で、仕事の片腕なんです。それに俺にとってもとても大切な人だから、これ以上王様の事を傷つけないで下さい。」
「私は丹羽君に間違った事を言ったつもりはないよ。」
「おじさんはそう思っているかもしれませんが、それは間違いです。」
頑として譲らない和希を見て久我沼は動揺していた。
久我沼の知っている和希はおっとりとした大人しい子だからだ。
まさかこのような事を言うとは信じられなかった。
「どうしてそこまでこの男の事を庇うんだ。まさかとは思うが丹羽君の事を愛しているのかい?」
「…っ…」
和希の顔が赤くなった。
即座に否定できなかった事が全てを語っていた。
驚く久我沼と、唖然として和希を見つめる丹羽の前で和希は呆然と立ちつくしていた。




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