執事の君といつまでも… 3


放課後の学校の駐車場。
生徒会が終わる時間の10分前に和希はその駐車場に車を止めた。
生徒会や委員会、部活で残っている生徒達がいるだけなのだが、それでも駐車場には結構な数の車が残っていた。
この学校の部活は文化系も運動系もそこそこのレベルの成績を残している。
「こんにちは、遠藤君。」
「七条さん、こんにちは。」
車から降りた和希に声を掛けた人物は、七条臣。
西園寺家の執事をしている七条は、日仏ハーフのアメリカ生まれで小学生の頃に日本に来たらしい。
その七条と和希はとても仲が良かった。
「今日は遠藤君に渡したい物があったのでお会いできて嬉しいです。これをどうぞ。」
そう言って七条は和希に箱が入った紙袋を差し出した。
「これって…七条さん、またケーキを作ったんですか?」
「おや?よく分かりましたね。」
「はい。」
和希はケーキの箱が入った紙袋を嬉しそうに受け取った。
七条は甘い物がとても好きで、よくスイーツを作っている。
そしてたくさん作ったと言って、和希にも作ったスイーツをくれるのであった。
七条の作ったスイーツはとても絶品で、有名店のスイーツに引けを取らない味をしていた。

「いつも、ありがとうございます。」
「いいえ。喜んでもらえてなによりです。」
「今日は何のケーキなんですか?」
「苺のタルトです。」
「苺のタルトですか?という事は…」
和希はニコッと笑うと、
「今日は伊藤様が西園寺様の所に遊びに来るのですね。」
「相変わらず、感のいい勘をしていますね、遠藤君は。」
「だって、苺のデザートを七条さんが作る日っていつも伊藤様が西園寺家に来る日じゃないですか。」
「伊藤様は苺がとても好きですから。」
とろけそうに甘い顔をしながら、七条は言う。
この学園に通っている伊藤啓太は七条の恋人だ。
入学式の日に出会った啓太と七条は一目でお互いに恋に落ちたそうだ。
偶々、啓太が生徒会に入り生徒会会計の西園寺と仲良くなり、西園寺家に遊びに来る時に七条は啓太の好きなデザートを用意しているのである。

その時、話声が聞こえてくると同時に元気な声が駐車場に響いた。
「七条さん!」
「おかえりなさいませ、伊藤様。」
「七条さん、伊藤様は止めてっていつも言っているじゃないですか。」
「ですが、伊藤様は郁様の大切な後輩ですので。」
「でも!俺は七条さんの恋人なんですから、いつもみたいに啓太って呼んで下さい。」
頬を膨らませて言う啓太の耳元で七条はそっと囁いた。
「それは…2人きりの時にいくらでも呼んで差し上げますので、今は伊藤様で我慢して下さい。ねえ、啓太。」
甘い声で囁かれた啓太の顔が真っ赤になる。
そんな啓太を微笑ましく思いながら、
「ご理解して頂けましたか?伊藤様。」
啓太は黙ってコクンと首を縦に振った。
そんな微笑ましい恋人達を和希は暖かい目で見守っていた。

「少しは場所をわきまえたらどうなんだ。」
「これは中嶋様。」
「これだからしつけのなっていない犬は困るんだ。立場というものをわきまえていないからな。」
中嶋の冷たい言葉を七条は気にも留めていないが、啓太はオロオロとしていた。
いつものその様子を呆れながら見ていた丹羽は、
「ヒデ、もうそれくらいにしてやれよ。啓太の奴が怯えているじゃねえか。」
「何を怯える必要がある。俺は伊藤には何も言っていない。」
「それは啓太にだって分かっているさ。けど、ヒデと七条が絡み始めると周りの空気が変わるんだよ。いい加減悟れよな。」
丹羽はそう言った後啓太の頭をガシガシと撫でると、
「悪いな、啓太。気にするなよ。」
「はい、大丈夫です、王様。気を使ってくれてありがとうございます。」
啓太の笑顔を見て丹羽はホッとする。
何が気に入らないのか中嶋と七条の仲はとても悪かった。
顔を見れば嫌みの1つも出てくる。
毎回の事とはいえ、聞いている周りの者はいい迷惑だった。
「臣、お前もだ。どうして中嶋の言う事を一々気にするんだ。適当に聞き流せばいいだけの事だろう。」
「はい。郁様の仰る通りですね。」
「まったく…返事だけはいいのだから。」
笑顔の七条に西園寺は呆れた顔をしながら、
「啓太、行くぞ。」
「はい、西園寺さん。」
啓太と西園寺を乗せ、七条は車を発進させた。

後に残ったのは和希と中嶋と丹羽だけだった。
「さてと、俺も帰るか。」
そう言う丹羽はと自分のバイクに跨った。
丹羽はいつも自分のバイクで学校に来ているのだった。
「それじゃ、ヒデ、遠藤、またな。」
「ああ。」
「お気を付けてお帰りになって下さいませ、丹羽様。」
頭を下げて、丹羽を見送る和希に丹羽は片手を上げてから走り出した。
「和希、帰るぞ。」
「はい。」
和希はそう言った後、後部席の扉を開き中嶋が乗り込んだのを確認した後自分も車に乗り込むのであった。




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