執事の君といつまでも… 6

和希が中嶋の遊び相手になる為に貰った時間は1週間。
その間に和希は中嶋の遊び相手に相応しい教育を受けなければならなかった。
初めて自宅を出て、親戚の家で生活する和希。
しかも特待生として入ったベルリバティー学園中等部は優秀な生徒が集まる学校だ。
学問をしながら、なれない環境での生活。
その上、僅か1週間という期間で身に付けなければならない遊び相手としての知識と行動。
それこそ寝る間も惜しんで和希は全ての事をこなしていた。
そのせいか中嶋の遊び相手としての教育はわずか5日で終わった。
さすがにその物覚えの早さに河本は驚いていた。

「完璧だ、和希。」
「ありがとうございます。河本執事。」
頭を下げる和希を満足そうに河本は見つめた。
「お辞儀の角度も正確だ。」
「ありがとうございます。けど…角度も時と場合によって違うんですが、その違いがはっきりと分からなくて…」
「それは経験により分かってくる。今はそれで十分だ。後は周りの人を見てよく研究するんだ。教えてもらうばかりでなく、人の技術を見て学ぶ事も必要だ。」
「はい。」
元気よく返事をする和希の頭を河本は撫でる。
「よく頑張ったな。我が甥ながらその努力には感心した。」
「おじさん…」
「だが、今日はもう休んだ方がいい。」
「えっ?でも…」
途惑った顔をした和希に河本は心配そうな顔をしながら、
「新しい生活に慣れる間もなく、毎日頑張ったんだろう?顔色が悪い。少し早いがもう夕食を食べてから帰りなさい。厨房にはその旨を伝えておいたから大丈夫だ。」
「それでは、お言葉に甘えてお先に失礼します。」

そう言って和希は厨房へと向かった。
途中で和希は中嶋に会った。
「和希!」
中嶋は和希に気が付く笑顔で和希の側に来た。
「久しぶりだな。後2日で俺の遊び相手になるんだろう。」
「はい。」
「楽しみだな。」
「私も楽しみです。ですが、本当に私などでよろしかったのですか?英明様にはもっと相応しい方がいらっしゃると思うのですが…」
「そんな事はない。和希が相応しいと思ったから俺は父上に頼んだんだ。」
少し膨れた顔で答える中嶋を見て、和希は微笑みながら、
「そう仰って頂けると嬉しいです。ご希望に答えられるよう頑張らせて頂きます。」
「ああ。待っている。」
そんな2人の会話を偶々通り掛かった他の執事やメイド達は目を丸くして見ていた。
誰に対しても不愛想な中嶋が嬉しそうに話をしている姿など見た事がなかったからだ。
そして、周りが驚く程の笑顔を自分がしている事を中嶋は知らなかった。
和希に対しての笑顔は自然に出てきたものだったからだ。
中嶋の中に芽生えていた和希への想いに幼い中嶋はまだ気付いていなかった。




BACK      NEXT