執事の君といつまでも… 7

和希が中嶋の遊び相手になって数ヶ月が経とうとしていた。
和希は学生なので中嶋の遊び相手をするのは夕方以降だった。
学校から帰るとすぐに燕尾服に着替えてまずは河本の所に行く。
河本は中嶋家の総括執事だからだ。
そこで、今日和希がすべき事を聞いてから和希は動きだす。
中嶋は来年から小学校に通う歳だが、既に家庭教師が数名ついていて朝から夕方まで予定が詰まっていた。
だから、和希が授業が終わってすぐに帰って来ても中嶋はまだ勉強中なのだ。
ゆっくりとしてから帰ってくればいいのだろうが、和希は毎日早く帰ってくる。
そして中嶋の勉強が終わるまでは中嶋家の執事としての勉強を積極的に学んでいた。

その日、和希は掃除をしていた。
掃除は大抵夕方までに終わっている。
だが、中嶋家は広いので細かい箇所は毎日しているわけではない。
その毎日していない細かい箇所の掃除をするのが、和希の仕事だった。
「和希、何をしているんだ?」
中嶋から声を掛けられ和希は微笑んで答えた。
「掃除です、英明様。」
「掃除?そんな事は和希がする事ではないだろう?」
ムッとした口調で言う中嶋に和希は手を止めながら、
「英明様。私はこの家の使用人です。」
「確かにそうかもしれないけど、和希は俺の遊び相手だろう?」
「はい。けれども、英明様がお勉強なさっている間は使用人として他の仕事をしています。」
「でも!」
中嶋は納得がいかない顔をした。
「和希は学生なんだから、俺の遊び相手以外の時間は自分の時間に当てればいいじゃないか!」
「英明様…」
和希は困った顔をした。
最近いつもこうなのだ。
中嶋は和希が中嶋の遊び相手以外の仕事をするのを酷く嫌がる。
だが、和希はあくまでも中嶋家の使用人として色んな事を学びたいと思っている。
和希にとって中嶋の遊び相手は仕事の1つだと思っているからだ。
だから、中嶋の遊び相手以外の時間は少しでも早く中嶋家の執事になれるように勉強したいのだ。
その事を中嶋は理解してくれない。
「英明様こそ、まだお勉強のお時間ではないのですか?」
「今日の分のノルマは全てこなした。だから、もう自由だ。和希、俺の部屋に行こう。」
「はい。」
そう言った後、
「申し訳ありませんが、ここの片付けをしてから英明様のお部屋に伺いますので先に戻って頂けますか?」
「分かった。なるべく早く来いよ。」
「はい。」
自分の部屋に向かう中嶋を見ながら和希は気づかれないようにため息を付いた。

中嶋の遊び相手をするのは嫌ではない。
むしろ、好きな仕事だ。
和希に屈託のない顔で笑い、慕う中嶋を和希は愛しいと思っていた。
愛しいと思ってはいるが…
時としてうっとうしくもなる。
和希はまだ中学生なのだ。
学校に通い、帰ってきたら一息付く間もなく仕事をしてその後中嶋の遊び相手をする。
そして、夜やっと自由になった時間で勉強をするのだ。
好きな事をする時間など、和希にはなかった。
その事を最初はそれ程気にしていなかった。
覚える事が多くて疲れていたせいかもしれない。
だが…
数ヶ月が過ぎ、心にほんの少し余裕が出てくると今の生活に不安が出てくるようになっていた。
自分はこのままここにいて今の生活を続けていいのだろうかと…
せっかく入ったBL学園なのに、部活もせず、友達と放課後遊ぶ事もなく過ごす毎日。
あの時…
初めて中嶋に会った時に遊び相手を断っていたら今の自分はどうだったんだろうかと考えるようになっていた。




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