執事の君といつまでも… 8


和希は縁側に座ってぼんやりと外の景色を眺めていた。
今、和希は夏休みなので自宅に帰って来ていた。
中学に入り初めての夏休み。
本来なら、普段あまり出来ない執事の仕事を中嶋家で行う予定だった。
だが、まだ執事見習いなので今なら長期間休みを取れるという理由で和希は学校が夏休みの間、仕事を休む事になった。
しかし、休みをもらったけれどもどう過ごしていいのか分からなかった。
本来なら中学生なので部活動や友達との遊びで忙しい筈だ。
だが、和希は部活に入っているわけでもなく、特に親しい友人などいなかった。
中嶋家での執事としての時間が和希の生活の大部分を占めていた為、中学へは授業を受けに行っているだけだったからだ。
だから、授業が終われば急いで中嶋家に帰り、執事見習いの仕事をした後中嶋の遊び相手をする。
そして、夜に叔父である河本の家に帰り、風呂に入り、中学の勉強をして寝る毎日だった。

そんな毎日に最初は無我夢中だったが、和希が今の生活に慣れてきた頃にふと感じた事だった。
クラスメートとあまりにも違う自分の生活。
話をしようとしても話題が合わないのであった。
アイドルやドラマの話をされてもテレビを見ないので分からない。
ゲームなどもしないし、忙しくて本を読む余裕もないのでそれらの話をされても内容が理解できない。
学校帰りや休日ににどこかに行こうと誘われても仕事があるので断るしかできなかった。
こんな事は今までなかったので、内心は凄く焦っていた。
もしかしたら都会と田舎の生活の違いに戸惑っているのかもしれない。
和希が育った田舎とはまったく違う今の生活。
慣れてきたので疲れもでてきたのかもしれない。
和希のそんな戸惑いを叔父であり、統括執事である河本は気が付いていた。
だから、和希は夏休みに入るとすぐに自宅に帰されたのであった。

憧れのベルリバティ学園に特待生として入学し、尊敬している叔父の元で執事の勉強をさせてもらって…
何の不満もないはずなのに、どうして悩むんだろう。
先程から何度もため息をつく和希だった。
そして、ここに戻って来て数日経ったが最近気がついた事があった。
それは中嶋の事だ。
戻ったばかりの頃は気にもならなかった。
それなのに、最近ふとした瞬間に中嶋の事が気になっていた。
『和希』
いつも自分の事をそう呼んでいた。
『一緒にチェスをやろう』
『この記事についてどう思う?』
クスッと和希は笑った。
誕生日が来ていないからまだ中嶋は5歳だ。
なのに、言動が大人びている。
興味の対象が大人と同じなのだ。
そんな中嶋に始めは驚いていたが、慣れてくれば意見を交わすのも面白かった。

「会いたいな…」
フッともらした言葉。
中嶋との関係に疑問を感じていたのに、離れたせいなのだろうか?
和希の心の中に中嶋に対する想いが育っているのに和希はまだ気づいていなかった。




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