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“コンコン”
「遠藤です。入ります。」
学生会室のドアをノックして入ってきた遠藤は荒く息をしていた。
「和希!」
啓太はポケットからハンカチを取り出して和希の額の汗を拭きながら
「どうしたんだよ。今日は仕事が忙しいから学校へは来れないって言ってたじゃないか?」
「ああ、でも思ったより捗ったんで少し時間に余裕ができたから学生会の手伝いに来たんだ。」
「サーバー棟からここまで走ってきたのか?」
「そうだよ。啓太にも会いたかったから。」
「もう…せっかく学校に来るなら、学生会の手伝いじゃなくて授業に出ろよ。」
「それ、さっき石塚にも言われた。」
顔を見合わせて笑う二人
「遠藤せっかく走ってきて貰ったが丹羽はいないぞ。」
「またですか?しょうがない人だな。って、中嶋さん俺王様に会いに来た訳じゃないんですけど。」
「ほぅ、違うのか。てっきりそうだと思っていたのだがな。」
「なんで俺が王様にわざわざ会いに来ないといけないんですか?」
「顔がそう言っているようだが。」
「な…何言ってるんですか。中嶋さん。」
「もう止めて下さい、中嶋さん。和希も本当の事言われたぐらいで無気になって怒らないでよ。」
「啓太まで何言うんだ。もういいよ。俺、帰る。」
「え?待ってよ、和希。」
ドアの側で和希の腕を啓太は掴んだ。
「離せよ、啓太。」
和希が啓太の手を振り払った時、バランスを崩してちょうどドアを開けて入って来た丹羽にぶつかった。
「遠藤?」
「お…王様?」
丹羽の胸に寄りかかった遠藤。二人の時間が一瞬止まったかのように動かなかった。その時遠藤の躰から漂うコロンの香りに丹羽は気づいた。
ーそれは“鈴菱和希”が愛用しているコロンの香りだったー
思わずギュッと和希を抱きしめるとその髪に唇をおとした。
“バシッ”
「てぇー!!」
学生会室に丹羽の声が響き渡り、丹羽の頬は赤くなっていた。
和希は目に涙を浮かべながら
「何するんですか?王様。俺の事からかうのは止めて下さい。」
「そんなつもりはねぇよ。」
「じゃあ、どういうつもりなんですか?王様なんて大キライだー!」
そう叫ぶと学生会室を飛び出していった。
事の成り行きを見ていた中嶋はため息をついた。
「急ぎすぎだ、哲ちゃん。」
「何がだ?」
「何も言わずにいきなりキスをされれば、あいつなら怒る事ぐらい分かるだ
ろう?」
「そんなもん、考えられるかよ。」
「ふん、だからバカだと言うのだ。で、どうするんだ。あいつをこのままにしておくのか?」
「うるせえよ。今から追いかけるんだよ。邪魔するなよ、ヒデ。」
「ああ。」
和希の後を追いかける為に丹羽は出て行った。
学生会室に残った啓太は中嶋の制服の裾をそっと掴むと不安そうな顔で言った。
「和希と王様、うまくいくと良いですね。」
「上手くいくだろう。お前が願っているんだからな、啓太。」
啓太の頭をポンと叩くと中嶋は優しく微笑む。その微笑みを見て啓太は安心した様に笑顔を見せた。



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