バレンタイン。
大好きな人に愛の告白をする日。
ここ、ベルリバティスクールも例外なく朝から好きな相手にチョコレートを渡したり、渡されている生徒が大勢いた。
そんな甘い香りが漂う放課後の会議室。
絶対零度の空気を身に纏っている中嶋に連行された丹羽は今日くらいは自由にさせてくれてもいいのにと思っていた。
そう思い始めたら、黙っていられないのが丹羽だった。
いつものようにパソコンをしている中嶋に丹羽は話掛けた。
「なぁヒデ。今日くらいは仕事を休ませてくれないか?」
「誰のせいで仕事をしていると思っている。よくも休ませて欲しいなどと言えたものだな。」
「そりゃ、悪いのは俺だけどよう。今日はバレンタインなんだぜ。」
丹羽のバレンタインと言う言葉に中嶋はピクッと反応する。
やっぱりなぁ…
丹羽は中嶋の反応をみて、確信した。
今まで3年間中嶋と親友として付き合ってきた丹羽。
他人に対して執着などしない中嶋が初めて執着した相手が和希だった。
中嶋の和希に対する対応や和希に見せる笑顔に丹羽は驚きを隠せなかった。
それ程、中嶋は変わってしまったのだった。
もちろん、それは和希限定であったけれども。
だが、和希は仕事で昨日の夕方から学園にはいない。
はじめて恋人と迎えるバレンタインに恋人が仕事でいないので、機嫌が悪いのだろう。
ヒデも可愛い所があるじゃねえかと丹羽は1人納得していた。
それが見当違いとも知らずに…
「でもよぉ、仕事だから仕方ねぇよな。」
「ほぉ…丹羽にしてはいやにものわかりがいいじゃないか。」
「そりゃ、俺にだって郁ちゃんがいるからヒデの気持ちはよく分かるぜ。」
「西園寺?」
妙な顔をする中嶋に、
「照れなくたっていいぜ。」
「照れる?お前は何が言いたいんだ?」
「察しのいいヒデにしちゃ、珍しいじゃねえか。」
「丹羽。用件をさっさと言え。」
「だから…バレンタインなのに遠藤がいないからイラついているんだろう。」
丹羽の一言に中嶋の眉間に皺がよる。
そんな中嶋の様子に気付かない丹羽は話し続ける。
「俺はさぁ、今朝郁ちゃんにチョコレートと誕生日プレゼントを渡して甘い雰囲気を味わってきたからいいけど、ヒデは違うからな。いくら遠藤が仕事だとはいえ、やっぱり今日くらいは側にいて欲しいよな。ヒデの辛い気持ち、俺も分かるぜ。」
「話はそれだけか、丹羽。」
「あ?」
不気味さが増している中嶋に気付いた丹羽は焦る。
もしかしたら、地雷を踏んだのだろうか?
だが、理由が分からない。
今の会話のどこに中嶋の機嫌を損ねるところがあったのだろうか?
「丹羽。俺はこれでも多少心が広いと思っている。今すぐ下らない話をやめて仕事を再開するなら今の話は忘れてやろう。」
「お…おお…すぐにやるぜ…」
丹羽は慌てて机の上にある書類を取って目を通し始めた。
そんな丹羽を見ながら、誰のせいで俺の機嫌が悪くなっているんだと中嶋は心の中で呟いた。
そう…
中嶋の機嫌の悪さは和希が学園にいないせいではなかった。
お昼休みに出会った七条から言われた一言。
その一言が中嶋の機嫌を大いに損ねたのだった。
和希と迎える甘いバレンタインの夜の予定は大幅に変わろうとしていた。