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バレンタインと誕生日と…6

この話は最後の方で無理やり押し倒すシーンがあります。
苦手な方は王様が会議室を出るあたりまででしたら大丈夫ですので、そこまでお読み下さい。
王様が出て行った後を読まなくても『7』へは通じるようになっています。





“コンコンコン”
会議室のドアを控えめに叩く音が響いた。
「入れ。」
中嶋の一声にドアがカチャと開く。
「英明。」
中嶋の姿を見て和希は嬉しそうに声を掛けた。
「仕事は終わったのか?」
「はい。遅くなってしまってごめんなさい。」
「気にしてはいない。それよりも走ってきたのか。」
そう言いながら中嶋は和希の傍に来ると、和希の頬に触れた。
触った頬はひんやりとしていた。
今日は暖かいとはいえ、まだ2月だ。
しかも夕方の今は冷え込んできている。
走ってここまで来た和希は少しだけ息を乱し頬は寒さで赤くなっていた。
「少しだけです。」
「無理はするな、といつも言ってるだろう。」
中嶋の言葉に和希は微笑みながら、
「大丈夫。それよりもこれを早く英明に渡したかったんです。」
和希は鞄の中からチョコレートが入っている箱を取り出した。
「遅くなりましたが、バレンタインのチョコレートです。英明は甘いものが苦手だと知っているけど、ここのチョコレートはそんなに甘くないから食べられると思います。」
和希が差し出したチョコレートの箱を見て、中嶋の眉間に皺が寄る。
そのチョコレートを見た瞬間、昼間の七条との会話を思い出したからだ。
黙り込んでしまった中嶋を見て和希は不思議そうな顔をして声を掛けようとしたその時、
「遠藤、昨日はありがとな。」
丹羽が声を掛けてきた。
「どういたしまして。それよりも今日は王様もここにいたんですね。」
「おいおい、どういう意味だよ。」
「だって、いつもいないじゃないですか。」
丹羽は頭を掻きながら、
「遠藤、最近ヒデに似てきたよな。前はあんなに可愛かったのによう。」
「俺は今までと変わりないですよ。」
クスッと和希は笑った。
「それよりも西園寺さんに渡せましたか?」
「おお。バッチリだぜ。おかげで朝からいい思いをさせてもらったぜ。遠藤のアドバイスのおかげだな。ありがとな。」
「いいえ。王様の気持ちが西園寺さんに伝わったんですよ。良かったですね。」
「ああ。遠藤が選んでくれたチョコレート、凄え美味かったぜ。」
「食べたんですか?」
「郁ちゃんと一緒にな。遠藤が言った通り、カカオの風味がよくて甘くないのに美味かった。郁ちゃんが美味しそうな顔をして食べているのを見れて嬉しかったぜ。」
嬉しそうにチョコレートの話をする丹羽に相槌を打つ和希。
そんな2人の様子を見ていた中嶋はイライラしていた。
「丹羽、書類は片付いたのか?」
「集中したから大分な。ヒデが言ってた今日のノルマはもう終わったぜ。」
「そうか。なら、もう帰っていい。」
「えっ?いいのか?」
「ああ、この部屋の鍵は俺が戻しておく。」
「それじゃ、頼むぜ。」

丹羽はそう言うと嬉しそうに鞄を持って会議室を出て行った。
会議室に残ったのは和希と中嶋だけになった。
急に静かになった会議室。
和希は手に持っているチョコレートを思い出して中嶋に渡そうとした時、中嶋の手が和希の顎を掴み唇が重なりあった。
突然の出来事に和希は目を閉じるのも忘れていたが、啄むように何度も触れる優しいキスに自然と瞳は塞がっていた。
どのくらいそうしていたのだろうか?
中嶋の唇が離れると、頬をばら色に染めた和希がいた。
中嶋は和希の手からチョコレートの箱を取るとゴミ箱に投げ入れた。
それを見た和希は、
「何をするんですか!」
「いらないものを捨てただけだ。」
「いらないものって…俺があげたチョコレートはいらないものなんですか?」
「ついでに買ったものなど俺はいらない。」
「ついで?」
和希は困惑した。
ついでってなぜそんな風に思うんだろう?
確かに今回のチョコレートは王様の分と一緒に買い求めたものだ。
だが、いくつかある中からどれが中嶋に合うかどうか悩んで求めたものだ。
けして、王様のチョコレートを注文するついでではない。
「確かにこのチョコレートは王様の分と一緒に買い求めました。でも、俺は英明の為にどれにしようか散々迷って選んだものです。けしてついでなんかじゃない。」
「口では何とでも言える。それが正しいという証拠でもあるのか。」
「証拠って…そんな…」
「ないんだろう。」
和希は悲しくなってしまった。
中嶋が1番喜ぶチョコレートはどれだろうと悩んで選んだなのに信じてもらえない。
疑いの目で見られて和希はいたたまれなくなってしまった。
「証拠はないけど…俺を信じてくれないのなら仕方ありません。」
そう言った後、
「俺、今日はもう帰ります。」
出口に向かおうとした和希の腕を中嶋は掴む。
「英明?」
「お前が言いたい事はそれだけか。」
「言いたい事って…」
「言いたい事だけ言って終わりか。」
「英明…?」
中嶋の言いたい事が分からなかった。
いや、普段の和希ならもしかしたら理解できたのかもしれない。
けれども、チョコレートをゴミ箱に捨てられた時点で和希の中で冷静に判断できる能力は失われていた。
「俺を虚仮にした償いをしてもらおうか。」
そう言うと和希を床の上を倒すと、その腕をネクタイで縛り上げた。
「やっ…いやだ…!!」
和希の意志を無視して行われるその行為に和希は声を荒げて逆らったが、その叫びは虚しく会議室に響き渡るだけだった。

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